■有名・無名の数学者たち(その15)

 数学者(幾何学者)はユークリッド空間がでてきたら,次は曲がった空間(多様体)ではどうなるか,曲がった空間でも正曲率(負曲率)のときはどうなるか,負曲率でも曲率が有界(非有界)の場合はどうなるか,知的好奇心の赴くまま考えを進めていくことが王道になっている.その結果,ユークリッド空間の幾何学,ましてや微分をしない幾何学はなおざりにされる運命にある.

 その反面「アルキメデスの時代にユークリッド幾何学は終わった」と数学者が思い違いをしているからだともいえる.

 この意見は専門家からすれば所詮素人の戯れ言かもしれないが,やってみなければわからないというのも事実であろう.最初から期待薄と決めつけてしまってはならないと思う.

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【1】忘れ去られたマルコフ数

ラグランジュ数は無理数の有理数近似を行う際、その収束速度と近似精度を表す指標である。

最も収束の遅い無理数はφであって、そのラグランジュ数はλ=√5、2番目に収束の遅い無理数は√2であって、そのラグランジュ数はλ=√8となる。

これらを連分数展開すると、φは部分商がすべて1、√2は部分商がすべて2となる。3番目に収束の遅い無理数の連分数展開は部分商が1または2となる。

ラグランジュ数は離散的な値をとるが、マルコフ数とはラグランジュ数の分母となる整数であって、λ=[√5,3]の範囲では、1,2,5,13,29,34,89,・・・と続く。

数学の研究会ではマルコフ方程式x^2+y^2+z^2=3xyzを双曲平面で解析するとか、マルコフスペクトルとラグランジュスペクトルの一致・不一致いった報告がしばしばなされるが、それらはマルコフが意図した本質的なものとは乖離していると思われる。

マルコフが意図したものはあくまでもユークリッド平面での解析であると思われる。私はそれをλ=[3,√13]の範囲まで拡張した。その範囲では1,2,3,8,12,21,55,70,・・・となり、集積点3を挟んで鏡のような世界が広がっているのである。

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λ<3とλ>3の違いを列挙すると、

λ<3では

(1)λ=1/3・(9x^2-4)^1/2

(2)マルコフ方程式はx^2+y^2+z^2=3xyz

(3)マルコフツリーにはF2n-1,P2n-1,ノンフィボナッチノンペルが属する

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λ>3では

(1)λ=1/3・(9x^2+4)^1/2

(2)マルコフ方程式はx^2+y^2+z^2=3xyz+2,または+8

(3)マルコフツリーは一般的なツリーとはならず,分岐が1回に制限されている。F2nとP2nが現れる

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このような話を京大・数理解析研でもしたところ・・・、拡張マルコフ数はλ=[3,√13]におけるマルコフ数であるが、専門の数学者にとっても初耳だったらしい。

旧来からのマルコフ数はλ=[√5,3]におけるものであるが、3を挟んで鏡のごとき世界が広がっていて、しかも全く苦労せずに求められるという話なのである。

相違点を挙げれば、λ=[√5,3]でのマルコフ数はツリー構造をなすが、λ=[3,√13]ではマルコフ数は幹から直接、葉が出るような形の、すなわち1回しか分枝できないツリーであるということだろう

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本日、阿部隆次先生(東京工芸大)より連絡をいただいた。

フィボナッチ数・ペル数の偶数項は正当なマルコフ・ラグランジュスペクトルであって、通常のマルコフ数がSL(2,z)、拡張したマルコフ数はGL(2,z)すなわち行列

式-1の場合に対応していることを教えていただいた。やはり拡張したマルコフ数は忘れ去られた問題であったのである。

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ほかにも忘れ去られたスペクトルがある可能性がある。しかし、λ=(9-4/x^2)^1/2、あるいは一般にλ=(M^2-N^2/x^2)^1/2からxを求めるのは容易ではないだろう。一番近道であると考えられる方法は

un+1=Mun+un-1, u1=L, u2=N,u3=MN+L

x^2-(M^2+2)xy+y^2={M^2(L^2-N^2)+M^3LN}(-1)^n

を考える。

{M^2(L^2-N^2)+M^3LN}が平方数±□となるのは

M=1の場合、(L^2-N^2)+LN

L=1とすると1-N^2+N=±□

N^2-N-1±□=0

N={1+(5±4□)^1/2}/2

(-)□=1,N=1(フィボナッチ数)

(+)□=1,N=2

などの解が得られる

L=2とすると

N^2-2N-4±□=0

N={1+(5±□)^1/2}

(-)□=1,N=3

(-)□=4,N=2

(+)□=4,N=4

L=3とすると

N^2-3N-9±□=0

N={3+(45±4□)^1/2}/2

(-)□=9,N=3

(+)□=1,N=5

(+)□=9,N=6

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