■オイラーの多面体公式(その1)

【1】オイラーの多面体定理

 凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.

 オイラーは晩年の17年間はまったくの盲目でしたが,それにもかかわらず非常に多くの定理・公式を発見していて,量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,

  頂点の数−辺の数+3角形の数

は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.

 平面図形(地図)は1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となります.

  v−e+f=1

しかし,外部領域を含めるならば,多面体の場合と同様に

  v−e+f=2

が成り立つのです.

 また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は

  v−e+f=2−2g

となることはよく知られています.逆にいうと,多面体の示性数gは,g=1−(f−e+v)/2で定義される量です.

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 オイラーの多面体定理を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理です.オイラー数はベッチ数の交代和

  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・

に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容ですが,ベッチ数とは,形には関係しないで,接触と分離にだけ関係するトポロジカルな示性数で,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数のことです.

 凸多角形では,

  v−e=0

ですから,n角形はn辺形になりますし,また,胞の個数をcで表すと,4次元空間では,

v−e+f−c=0

というオイラー・ポアンカレの定理が成り立っています.

 ところで,線分と三角形および四面体は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.これらの数をまとめて書くと

    2,1

   3,3,1

  4,6,4,1

ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5面,5胞(正5胞体)になります.

 一般に,n次元単体については,

  v=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・,

 また,

  n+1C0−n+1C1+n+1C2−n+1C3+・・・+(-1)^(n+1)n+1Cn+1=0

ですから,

  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・=1±1

すなわち,オイラー標数は,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることが理解されます.

 なお,偶数次元と奇数次元とでの同様の交代性は,超球の体積にも現れます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をvnとすると,v1=2(直径),v2=π(面積),v3=4π/3(体積)はご存知でしょうが,vnは漸化式:

  vn/vn-2=2π/n

によって求めることができます.そして,任意のnに対して,

  vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!   nが奇数の場合

  vn=(2π)^(n/2)/n!!      nが偶数の場合

であり,1次元から6次元までを具体的に書けば,

  vn=2,π,4π/3,π^2/2,8π^2/15,π^3/6

という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.

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