■マルコフ方程式の話(その33)
   |α−a/b|<1/√5b^2
を満たす有理数a/bは無限に多く存在する.一方,λ>√5に対しても
   |α−a/b|<1/λb^2
を満たす有理数a/bが有限個しかない無理数αが存在する.
  λ=[1:1,1,1,・・・]+[0:1,1,1,・・・]=φ+1/φ=√5
 すべての無理数のなかで,最も有理近似を嫌う数は黄金比
  φ=(1+√5)/2=[1:1,1,1,・・・]
である.
 この定数√5は最良のもので,これより大きな数に置き換えることはできないが,黄金比φのようにαの連分数展開が有限個を除いてすべて1になる無理数
  α=[a0:a1,a2,・・・,ar,1,1,1,・・・]
を除外すれば,√5の代わりに√8を用いても成り立つ.
  λ=[2:2,2,2,・・・]+[0:2,2,2,・・・]=1+√2+1/(1+√2)=√8
  |α−a/b|<1/√8b^2
 次に問題になるのは
  √2=[1:2,2,2,・・・]
  1+√2=[2:2,2,2,・・・]
のようなαの連分数展開が有限個を除いてすべて2になる無理数で,それを除くと定理を
  λ=[2:2,1,1,2,2,1,1,・・・]+[0:1,1,2,2,2,1,1,2,2,・・・]=(9+√221)/10+(−9+√221)/10=√(221/25)
  |α−a/b|<1/√(221/25)b^2
に改良できる.
 同様の改良を続けていったときの定数√5,√8,√(221/25),・・・がラグランジュ数である.それらは
  √(9−4/m^2)
において,それぞれm=1,2,5とおいたものである.結果として得られる数は3に収束する.
   |α−a/b|<1/λb^2
のλは3より小さくすることはできない.
  m=1,2,5,13,29,34,89,169,194,233,433,610,985,・・・
はマルコフ数と呼ばれる.
 マルコフ数は2次のディオファントス方程式
  x^2+y^2+z^2=3xyz
の解として現れる.大いに興味をかき立ててきたディオファントス方程式である.たとえば(x,y,z)=(1,1,1),(2,1,1),(5,1,2),(13,1,5),(29,5,2),・・・
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【1】ラグランジュ・スペクトル
  {√5,√8,√(221)/5,√(1517)/13,・・・}
そして,これらに対応する数とつきあわせると
  √5→(−1+√5)/2=[0:1,1,1,・・・]
  √8→(−1+√2)=[0:2,2,2,・・・]
  √(221)/5→(−9+√221)/14=[0:2,2,1,1,・・・]
  √(1517)/13→(−23+√1517)/38=[0:2,2,1,1,1,1,・・・]
[1](−1+√5)/2以外のすべての無理数αに対して,λ>√5として,
   |α−a/b|<1/λb^2
となる有理数a/bが無限個存在する.
[2](−1+√5)/2と(−1+√2)以外のすべての無理数αに対して,λ>√8として,
   |α−a/b|<1/λb^2
となる有理数a/bが無限個存在する.
[3](−1+√5)/2と(−1+√2)と(−9+√221)/14以外のすべての無理数αに対して,λ>√(221)/5として,
   |α−a/b|<1/λb^2
となる有理数a/bが無限個存在する.
[4](−1+√5)/2と(−1+√2)と(−9+√221)/14と(−23+√1517)/38以外のすべての無理数αに対して,λ>√(1517)/13として,
   |α−a/b|<1/λb^2
となる有理数a/bが無限個存在する.
 マルコフ数の謎について,さらに続けるならば
  √(7865)/29→[0:2,2,2,2,1,1,・・・]
  √(2600)/17→[0:2,2,1,1,1,1,1,1,・・・]
  √(78285)/89→[0:2,2,1,1,1,1,1,1,1,1,・・・]
  √(257045)/169→[0:2,2,2,2,2,2,1,1,・・・]
  √(84680)/97→[0:2,2,1,1,2,2,1,1,1,1,・・・]
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【2】マルコフ・スペクトル
  {1,2,5,13,29,34,・・・}
 √5≦x<3として,ここにはスべクトルの成分が可算無限個含まれている.この数列の一般項は
  x^2+y^2+z^2=3xyzの正の整数解のうち,最も大きいものをmとした場合,
  √(9−4/m^2)
となる.
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 αが2次の無理数でないとき,λ≧3となる.3≦x<θは,いま盛んに研究されている領域で,いくつかの成果を掲げると
[1]θ=(253589820+283748√462)/491993569(フライマン定数)
[2]λ=3のとき,可算無限個のαがある.
[3]√12<λ<√13,√13<λ<(65+9√3)/22のとき,αは存在しない.α=(−1+√13)/2のときだけλ=√13.λ=√12については不可算無限個のαがある.
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