■超幾何関数とモノドロミー群(その2)
1873年のシュワルツの有名な定理は「モノドロミー群が有限群ならば超幾何関数は代数関数である」ことを示すものですが、その証明は球面(平面)を三角形で敷きつめることに帰着されるのでした.
超幾何関数はふつう超越関数ですが,ときどき代数関数になることがあり,
2F1(-n,1,1,z)=(1−z)^n
はこの例です.
次に代数関数とはならない場合を考えてみることにしましょう.指数関数:y=exp(x)は座標(0,1)を通りますが,点(0,1)がこの滑らかな曲線上の唯一の代数的点であって,自明な点(0,1)を除き代数的点を通ることができません.これが指数曲線や対数曲線が超越曲線と呼ばれる所以なのですが,これ以外のどの代数的点にもぶつからないのは驚くべきことです.
超幾何関数の値は微分方程式のモノドロミー群に深く関わってくるのですが,超越関数となる超幾何関数の代数的な変数での特殊値はふつう超越的です.しかし,超越関数でありながらも,ときどき予期されない代数的値をとることがあります.
代数的数αに対して、z=αでの超幾何関数の値が代数的な値になる場合が一つでも存在するとすると、モノドロミー群が有限群の場合、定義内の他のすべての代数的数もやはり特異モジュールとなる
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【2】竹内喜佐雄の数論的(双曲的)三角群
代数的数αに対してz=αでの超幾何関数の値が代数的になる場合,αを超幾何関数の特異モジュールと呼ぶことにします.ガウスの超幾何関数が代数関数となる場合はシュワルツの三角群からわかるのですが,モノドロミー群が有限群の場合,特異モジュールがひとつ存在すると仮定すると,シュワルツの定理より他のすべての代数的数も特異モジュールとなります.
一方,モノドロミー群が数論的(双曲的三角群)となる場合,対応する超幾何関数は超越関数で,ヴォルファルトの仕事から特異モジュールは無限個存在することがわかります.そして,モノドロミー群が数論的群となる場合の(α,β,γ)は竹内が調べた85組ですべてであることがわかっています(1977年).多すぎてここに掲げることはできませんが,竹内のリストは
吉田正章「私説超幾何関数」共立出版
などでみることができます.
例をあげると,楕円積分と関わる保型関数
4√E4(z)=2F1(1/12,5/12;1;1728/j(z))
とのつながりから,ガウスの超幾何関数
2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11
など,思いもかけないような式がヴォルファルトにより得られています.x座標1323/1331もy座標3/4・4√11も代数的数になるというわけですが,このように自明でない代数的点が存在するのです.
2F1(1/12,7/12;2/3;64000/64009)=2/3・6√253
などもその例ですが,現在,2F1ばかりでなく,一般的な超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンによりすでに決定されているようです.
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また,シュワルツにおいても竹内においても,モノドロミー群が数論的でない無限群の場合は調べられていませんが,その場合,特異モジュールは有限個と予想されています.
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