■メビウス関数とディリクレ級数(その49)
【4】ウィグナーの半円則
前節では,エネルギー準位の最隣接間隔分布について述べたが,ウィグナー分布は対称行列の固有値分布に登場する分布である.
n次の対称行列Hの固有値はすべて実数であり,それらを並べて,
λ1≦λ2≦・・・≦λn
とするとき,n→∞のときの挙動,すなわち,固有値の漸近分布を調べたい.
ウィグナーは,n→∞のとき
a√n≦λ≦b√nなる固有値の数/n → ∫(a,b)φ(t)dt
ここで,φ(t)=1/2πm^2√(4m^2-t^2)
が成り立つことを証明した(1958年).
この定理は要素の分布(ランダム,一様分布,ガウス分布,・・・)の詳細によらず,一般的に成り立つ性質であり,複雑で何の秩序もないように見える行列であっても,行列の大きさが非常に大きいときに成り立つ普遍的な法則があるというのである.
分布関数φのグラフは半円y=√(1-x^2)で与えられるからこの定理を「半円則」ともいう.ウィグナーの半円則は近年大いに発展したランダム行列の原型となっている.
→[参]コラム「最近接距離分布(ウィグナー分布)」
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