■メビウス関数とディリクレ級数(その48)

【3】ウィグナー分布(エネルギー準位の固有値分布)

 対称なランダム行列Hを,ユニタリー変換

  H’=WHW~

して,Hの固有値:E1,E2,・・・,Enを確率変数とする同時確率分布関数

  P{Ei}=Cexp{-(E1^2+・・・+En^2)/4a^2}Π(Ej−Ek)^β

を導出する.

 Π(Ej−Ek)は差積を表すのだが,簡単のため,n=2の場合を考えてみると,

  P{E1,E2}=Cexp{-(E1^2+E2^2)/4a^2}(E2−E1)^β

 2変数E1,E2(>E1)を

  E=E1+E2,S=E2−E1

で置き換えると,ヤコビアンは

  J=d(E1,E2)/d(E,S)=1/2

 したがって,

  P{E,S}=Cexp{-(E^2+S^2)/8a^2}S^βJ

  P{E,S}dEdS=CJexp{-(E^2)/8a^2}dE×S^βexp{-(S^2)/8a^2}dS

 よって,準位間隔がSとS+dSの間に落ちる確率は

  P{S}=(定数)S^βexp{-S^2)/8a^2}   (0<S<∞)

これがウィグナー分布と呼ばれる最隣接間隔分布であり,Sが0でないところにピークをもち,隣接する準位の反発を表す関数である.

 

 最隣接間隔分布は,尺度母数aや形状母数βの値によって,

  1次のウィグナー分布:p(s)=π/2sexp(-π/4s^2)

  2次のウィグナー分布:p(s)=32/π^2s^2exp(-4/πs^2)

などとなるが,指数関数の引き数は前者も後者も2乗の形s^2であることに注意されたい.

[補]Hが実対称行列(磁場が作用せず時間反転対称性がある)のときβ=1,Hが複素エルミート行列(磁場が作用して時間反転対称性が破れている)のときβ=2.

  H’=WHW~

において,Wが直交行列でHがガウス分布に従う実対称行列のとき,Hの集合をGOE,Wがユニタリー行列でHが複素エルミート行列のとき,Hの集合をGUEという.

 

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 原子核物理学ではウィグナー分布と呼ばれているが,1次のウィグナー分布はレイリー分布,2次のウィグナー分布はマクスウェル分布と呼ばれる分布に一致するものである.レイリー分布は英国のレイリー卿が音響工学との関連でこの分布を発見したことに由来し,マクスウェル分布は気体分子の速度分布と関係した物理学上の重要な分布関数になっている.

 これらは一般にはχ分布と呼ばれるクラスに属し,n次元正規分布おける原点からのユークリッド距離の確率分布として導きだされるものである.その意味で,レイリー分布・マクスウェル分布は,いわゆる2次元・3次元標的問題の解となる分布である.

自由度   ワイブル分布   χ分布        非心χ分布

 1    指数分布     半正規分布      折り重ね正規分布

 2    レイリー分布   レイリー分布     ライス分布

 3    ワイブル分布   マクスウェル分布   非心χ分布

 

 レイリー分布は形状母数2のワイブル分布であるが,この分布は2つの顔をもっていて,χ分布において自由度2としたものでもある.すなわち,形状母数2のワイブル分布は,特別な性格をもつのである.

  1)レイリー分布はワイブル分布の1種であり,ポアソン過程で生成された個々の点の最近接点との距離の分布となっている.

  2)レイリー分布は自由度2のχ分布であり,自由度2のχ^2分布は指数分布であるから,レイリー分布は指数分布にしたがう確率変数の平方根の分布と理解することができる.

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