■メビウス関数とディリクレ級数(その47)
【2】ランダム行列
ヒルベルトの推測したランダム・エルミート行列と同種の行列は,後になって,その固有値が核子のエネルギーレベルに対応している原子核物理学の研究によく出てくることがわかった.
このエネルギーレベルの差として得られる分布が「ウィグナー分布」と呼ばれるものである.ウィグナー分布の詳細については後述することにするが,エネルギースペクトル{En}をエネルギー準位を大きい順に
En≧En-1≧・・・≧E1
とならべ,その間隔
ΔE=Ei−Ei
を測定する.そしてE〜E+dEの間におちる個数を
P(E)dE
とする.
α次のウィグナー分布
P(E)〜E^αexp(−aE^2) α=1,2
のような分布はランダムな行列要素をもつエルミート行列の固有値の間隔分布に現れることが知られている.
α=1のとき→GOE(実対称行列)
α=2のとき→GUE(エルミート行列)
α=4のとき→GSE
と呼ばれるのだが,それぞれ,Gaussian (Orthogonal,Unitary,Symplectic) Ensembleの略である.
固有値の統計を調べる上で,相関関数と呼ばれる量が重要な役割を果たすのだが,それによれば,ΔE離れた固有エネルギー対が存在する確率は,α=2の場合,
C(ΔE)=1−(sinπΔE/πΔE)^2
になる.
経験的に量子カオス系の固有エネルギーにも同様の相関が見られる.GUEから得られた相関関数がゼータ関数の零点と密接に関係していることがモンゴメリー,サルナックなどによって示された.
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