■シンプルかつ深い(その3)

【1】楕円曲線とフェルマー予想

 フェルマーの最終定理『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』を解くことは,2変数n次多項式f(x,y)=x^n+y^n−1=0に,有理数解があるか,すなわち有理点をもつかどうかを考える問題に対応します.

 モーデル・ファルティングスの定理によってフェルマーの方程式に解があるとすれば高々有限個しか解がないことはわかりましが,1つもないかどうかはわかりません.しかしながら,モーデル・ファルティングスの定理より,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.

 また,リーマン・フルヴィッツの公式より,フェルマー曲線x^n+y^n=1は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.

 こうして,1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.

 さらに,フライとリベットによって,楕円曲線はフェルマー問題の定性的な一般化であり,フェルマー予想に反例が存在したときに生ずる楕円曲線は特異な性質をもつことになり,そのような曲線は絶対に正しいと信じられている谷山・志村予想の反例になりますから存在し得ないように思われたのです.

 フライとリベットがフェルマー(フェルマー曲線)と谷山(楕円曲線)を結んだことになりますが,それが証明されればフェルマーの定理は正しくなくてはならないということになります.

 a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:

  y^2=x(x+a^p)(x−b^p)

が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,フライはこの課題に取り組んだのですが,成功しませんでした.

 ワイルズはフェルマーの定理の証明が一筋縄ではいかないことを実感して一時棚上げにしていたのですが,フライとリベットの結果にフェルマー攻略への道を確信し,研究室に7年間もこもって,彼独自のアイデアをもってとうとう証明に成功しました.これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきますが,楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのです.

 この間の苦節7年には大いなる勇気,確固たる意志,強靭な忍耐力,広範な知識,ずば抜けた戦略,そして幸運を必要としたことは間違いありません.

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【2】楕円曲線とabc予想

 mの素因数分解を

  m=Πpi^mi

とすると,多項式の次数degに相当するものは

  logm=Σmilogpi

互いに異なる根の数に相当するものは

  R=Σlogpi

と定義するのだが,互いに素な整数でa+b=cを満たすものすべてについて,不等式

  max(|a|,|b|,|c|)≦R(abc)

は一般に成り立たない.

 また,

  max(|a|,|b|,|c|)≦K・R(abc)

が成り立つような定数Kも存在しないのだが,不等式を弱いものにした

  max(|a|,|b|,|c|)≦K・R(abc)^(1+ε)

が成り立つと予想されている(abc予想,1986年).

 1985年頃,フェルマー予想を谷山予想に帰着させたのはフライだあるが,フェルマー予想をabc予想に帰着させたのはエステルレとマッサーだった.

 フェルマー予想での考え方はabc予想の場合にも有効で,フライの考え方をまねて,a+b=cを満たすような楕円曲線:

  y^2=x(x+a)(x−b)

はそれほど多くないということを主張するのである.

 そして,2012年8月,望月新一先生(京都大学)がabc予想の証明をしたとのニュースが流れた.abc予想とは方程式a+b=cをみたす互いに素な自然数a,b,cについて,cを積abcの素因子成分によって上から抑えるという不等式予想である.これが成立するとフェルマー・ワイルズの定理やモーデル・ファルティングスの定理の簡単に証明(別証)することができるという.

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