■ケプラーの球体充填問題(その3)
【2】ヘールズによるケプラー問題の証明
面心立方格子が3次元空間における最密充填構造だという証明は,わずか数%の差であるにもかかわらず,また,何世紀にもわたる研究にもかかわらず未解決でした.苦々しいほど遅々たる歩みのケプラーの問題については,ロジャーズの名文句のごとく,大半の数学者がまず間違いないだろうと考え,すべての物理学者が当たり前だと思っていた・・・そして欠けているのは証明だけという状況だったのです.
ケプラー予想は,1994年に解決されたフェルマーの最終定理に取って代わる数学上の未解決問題になっていたわけですが,ヘールズはボロノイ分割に加えて,その双対あるドロネーの四面体分割(ドロネー・シンプレックス)を用いました.そして,評価関数を導入して,密度の低い配置は減点(ペナルティー・ポイント)され,密度の高い配置は加点(ポーナス・ポイント)する.
このとき,何年にもわたってヘールズを悩ませることになった厄介な問題は正二十面体配置(五角反柱配置)でした.六方最密充填でも面心立方充填置でもすべての球はほかの12個の球に接触しています(どの球も同じ層の中の3つ,すぐ上とすぐ下の層の3つずつ,合計12個の球と接しています).
しかし,12個の球に接触する配置はこればかりではなく,無限に存在します.たとえば,真ん中の球の真下に1個の球を置き,赤道の少し下に5個の球,赤道の少し上に5個の球,最後に真ん中の球の真上に12番目の球を置くというのが正二十面体配置(五角反柱配置)です.
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菱形十二面体配列は,たとえどの球も1個だけでは動けなくとも配列全体では動き得るので,五角形十二面体型(正二十面体型)配列に移行することができるのです.
正二十面体配置(球充填密度:75.46%)が12個の球に接触する局所的な最密球充填密度であることもヘールズ,マクローリンにより証明されています.しかし,3次元空間において正二十面体(正十二面体)は全空間を満たすことのできる敷石立体ではないのです.
ちなみに,球に外接する正十二面体の体積は
10{2(65−29√5)}^(1/2)=5.550・・・
菱形十二面体の体積は
4√2=5.656・・・
となり,この値は上の値より大きくなります.
[補]アルキメデスの正角柱(上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたものをアルキメデスの反角柱と呼びます.正20面体は側面が10個の正三角形からなる五角反柱の上下の面に正五角錐をつけると構成することができます.
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また,ヘールズはケプラー問題の証明のためにコンピュータの助けを借りなければなりませんでした.ヘールズによるケプラー問題の証明は,本質的に最適化問題であって,シンプレックス法を繰り返し利用しました.
ヘールズの証明は美しくエレガントな証明ではなく,しらみ潰しの方法に基づく力ずくの証明だったのですが,この状況は「四色問題」の場合と非常によく似ています.「四色問題」でコンピュータが初めて定理の証明に使われたとき数学界は大揺れに揺れたのですが,ヘールズのケプラー問題の証明はそれから20年以上経っていたこともあってか,それほどのスキャンダルにはなりませんでした.コンピュータによる証明が数学の進展にとって重要であることが多くの数学者にとって受け入れられるようになってきているためなのでしょう.
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