■球面上の幾何学(その10)
【1】球面上の点配置のミニマックス問題,マックスミニ問題
球面上の有限個の点の集合で,よい性質をもつものは? というきわめて漠然,曖昧模糊とした問題を考えると,これはある意味で,球によって最もよく近似できるn頂点あるいはn面の多面体を求める問題であり,球面に内接する正多面体の頂点のつくる集合は,いろいろな意味でその例といえるでしょう.
さらに,凸な一様多面体(面が正則,頂点が等価)であるプラトン立体,アルキメデス立体,半正則プリズム,反プリズムなどがよい性質をもつ多面体の例となり得るでしょうし,一様な多面体の他に,すべての面が正多角形である凸多面体(ザルガラー多面体)が正多面体,準正多面体を除くと92種類存在することもわかっています.
ところで,正多面体の頂点は外接球上に分布していますが,どの2点の最短距離もできるだけ大きくなるような点の分布をなしているとは限りません.たとえば,6個あるいは12個の点の分布はそれぞれ正八面体と正20面体になりますが,8個の点については立方体にはならないからです.
さらに,正則な配置問題だけでなく,任意の不規則な配置も考慮に入れられるのですが,たとえば,7個の点の球面最小距離を最大にするミニマックス問題,マックスミニ問題となるとどうしてよいのやらわかりません.
そこでまず球面上にn個の点を配置して,点間の最小球面距離が最大になるようにするとき,最短距離の上限が,面積2π/(n−2)の球面正三角形の1辺の長さδn以下となることを証明しましょう.
(証明)
ガウス曲率は,
K=1/R1R2
で定義されますが,球面三角形ABCにこのことをあてはめると,三角形の頂点の角度をα,β,γとおいて,
S=∫∫KdA=α+β+γ−π (ガウス・ボンネの定理)
(球面凸n角形に対しては,S=α1+α2+・・・+αn−(n−2)π)
したがって,球面正三角形の1つの内角をαとすると,その面積は
△=3α−π
3α−π=2π/(n−2)より,α=nπ/(3n−6)
ここで,球面余弦定理により,
cosδn=cosα/(1−cosα)
δn=arccos{cosα/(1−cosα)}
ωn=α/2=n/(n−2)・π/6 n≧3
すなわち,2ωnは面積が6ωn−πの球面正三角形△nの1つの内角を表しているのですが,以上より,
a)単位球面上のn個の点の中から,距離が
d≦√(4−cosec^2(ωn))
を満たす2点をつねに取り出すことができる.
b)この2点の球面距離に関しては
δn≦arccos{(cot^2(ωn)−1)/2}
が成り立つ.
右辺は面積が2π/(n−2)の球面正三角形の1辺の長さδnにほかなりません.これよりd≦δですが,n=3,4,6,12に対しては等号が成り立ち,正確な値を与えてくれます.
このことを使うと,ミニマックス問題の解は,n=4,6,12の場合には,それぞれ正4面体,正8面体,正20面体の頂点に一致するような配置が導かれます.n=8の解は,単位球に内接し8個の頂点をもつ反プリズム(2個の正方形と8個の正三角形からなる),n=24では,アルキメデスの多面体(3,3,3,3,4)の頂点,n=20は未解決のまま残っています.
一方,マックスミニ問題の解は,n=6のとき,正則な二重ピラミッドの頂点,n=12のとき,反プリズム的二重ピラミッドの頂点であることが導かれています.二重ピラミッドとは,プリズムあるいは反プリズムの底面および上面にそれぞれひとつずつピラミッドをおくときにできる立体です.
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【2】ガウス・ボンネの定理
空間の不変量が特性数であり,特性数の最も簡単な例がオイラー標数であるのですが,特性類の理論は古くはガウス・ボンネの定理にその雛形を見いだすことができます.
ガウス・ボンネの定理とは,
ガウス曲率の積分=2π×オイラー数
で表されます.オイラー標数については,コラム「4次元・5次元を垣間みる」などで解説してあるので割愛しますが,この定理は,曲面の各点における曲がり具合を知れば,穴の数がわかることを意味しています.
われわれの住む世界にいくつ穴が空いているかは,外側からみれば一目瞭然ですが,内部に住む人間(曲面人)にはなかなか理解できません.しかし,面・辺・頂点の数を数えたり,世界の曲がり具合を調べることによって,内部に住む人間も穴の数を知ることができるようになるというわけです.
ガウス・ボンネの定理は,
∫(微分幾何学的データ)=位相幾何学的データ
の形をしています.すなわち,ガウス・ボンネの定理は,局所的に記述されるガウス曲率を全体で積分すると位相不変量(大域的で連続的に変形していっても変化しない量)になることをいっているわけで,微分幾何学と位相幾何学の異なる2つの世界を結びつけているところから,微分幾何学で最も美しい定理といわれています.
そして,ガウス・ボンネの定理に類似の図式は,リーマン面のリーマン・ロッホの定理やディラック演算子に関するアティヤ・シンガーの定理などにも表れ,美しい定理の1つの型となっています.
オイラー数を曲率の積分で表すガウス・ボンネの定理は,2次元に限らず,2n次元についても拡張されて成り立ちます.これは,ポアンカレ・ホップの指数定理とも呼ばれています.その後,ガウス・ボンネの定理はチャーン(陳省身)によって高次元に拡張されました.また,ガウス・ボンネ・チャーンの定理,リーマン・ロッホの定理,ヒルチェブルフの符号定理など,それ以前に知られていた幾何学の代表的ないくつかの定理を統一したものが,アティヤ・シンガーの指数定理なのです.
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