■球面上の幾何学(その1)

【1】メルカトール図法と航程線

 われわれが最も慣れ親しんでいる世界地図は,メルカトールの地図と呼ばれるものである.メルカトールの地図は等角写像,すなわち,任意の点から任意の他の点までの正しい方向(方位角)を示す地図であって,海図として航海のナビゲーション用に広く使用されている.

 船が羅針盤を頼りに経線・緯線となす角を一定にとって進むことにする.メルカトール図法ならは経線・緯線は平行な縦横の線として表されているので航路は直線になる.しかし,メルカトールの地図は正距図法ではないので,地図上の任意の2つの点を結ぶ線分(航程線)は測地線ではない.

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【2】エッシャーと球面らせん

 このような航路が描く線を航海術の用語で航程線というが,これを球面上で見れば渦巻き線となる.

 オランダの版画家エッシャーは数学を深く理解していた画家で,これとよく似た木版画「球面らせん」という作品を製作している.

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【3】エッシャーとポアンカレ円板

 次に,南極に平面が触れるようにして,北極から投影する図法を考えてみよう.この場合,北緯φの点と南緯φの2つの地点は,単位円に関して反転した点に投影される.

  y =2Rtan(π/4+φ/2)

  y’=2Rtan(π/4−φ/2)=1/y

 このことから,この投影法は方向が保存される正方位図法であることが示される.ただし,正距図法ではないので,地図上で2つの点を結んでいる線分は最短距離(測地線)を表すものではない.

 ところで,エッシャーの絵「円の極限」では,たとえば,長さ1の棒をもって円の境界の方に移動すると,長さ1の棒はこの空間の中にいる人にとってはずっと長さ1であるが,外にいる人から見ると境界に行けば行くほどだんだん短くなって最終的に点になってしまう.

 ポアンカレはユークリッド平面をポアンカレ円板に置き換え,直線を円と直角に交差する弧に置き換えることで,双曲線幾何学の模式図を作成した.

 まず,リーマン球面(x^2+y^2+z^2=1)から平面(X,Y)への立体射影が円周を円周に写すことを示してみたい.

 三角形の相似より,X^2+Y^2=R^2として,

  x=2X/(R^2+1),y=2Y/(R^2+1),

  z=(R^2−1)/(R^2+1)

 ここで,平面曲線(X+a)^2+(Y+b)^2=c^2を考えると,この方程式は

  R^2+2aX+2bY=d,d=c^2−a^2−b^2

と書き直すことができる.

 さらに,これを

  2aX/(R^2+1)+2bY/(R^2+1)+(d+1)(R^2−1)/2(R^2+1)=(d−1)/2

  2ax+2by+(d+1)z=d−1

と書き直すことができる.

 これは北極(0,0,1)を通らない平面の方程式であり,球面との交わりは円周である.すなわち,平面の円周の原像は球面の円周であり,平面の直線の原像は北極を通る球面の円周である.(その間の角度を変えないことの証明は省略)

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 この立体射影により赤道上の点は平面上の円周に,南極点は円の中心に投影される.南半球の点は円の内側に,北半球の点は円の外側に投影されるが,立体射影の最も注目すべき性質は,球面上の円を平面上の円へ投影し,球上で交差するこの間の角度が維持されることである.

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