■たくさんのシャボン玉がくっつくと(その3)
コクセターは1つの泡に接する泡の数を
(23+√313)/3=13.56
と計算し,そのアイデアを日記に記しているそうである.
これは2次方程式
3x^2−46x+72=0
の解となっていることが見てとれるが,コラム「泡細胞の幾何学」に示した計算法では2次方程式が現れる気配はまったくなかった.どのようにして導出されたものなのだろうか?
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【1】ヒーウッドの公式
オイラーの公式:v−e+f=2は単純ですが,要はその使い方というわけで,たとえば,多面体には3角形か4角形面か5角形面が少なくとも1つなければならないことはもっと簡単に証明できます.
どの領域も少なくとも6つの領域で囲まれていると仮定すると
6f≦2e
また,このような問題を解くにあたっては,すべての交点で3本の境界線が会している地図だけを考えればよいので,
3v≦2e
これらをオイラーの公式に代入すると
v−e+f≦1/3e−e+2/3e=0≠2
となって矛盾を生じます.したがって,5個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることになります.
平面や球面上に描かれた地図に関するオイラーの公式は
v−e+f=2
でしたが,トーラス上の地図に関するオイラーの公式は
v−e+f=0
です.
トーラスでは6個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることを証明するために,どの領域も少なくとも7つの領域で囲まれていると仮定すると
7f≦2e
また,3v≦2eですから
v−e+f≦2/7e−e+2/3e=−1/21e≠0
という矛盾を引き出すことができます.
したがって,トーラスでは6個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることになります.このことを利用すると,
「トーラス上のどんな地図でも7色で塗り分けられる」
ことが証明されます.ヒーウッドは実際に7色を必要とする例もあげています.
これを証明したヒーウッドはさらにg個の穴があいたトーラス上の地図に関するオイラーの公式
v−e+f=2−2g
を利用して
(1)2個の穴があいているトーラス上の地図はどれも8色で塗り分けられる
(2)3個の穴があいているトーラス上の地図はどれも9色で塗り分けられる
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(3)10個の穴があいているトーラス上の地図はどれも14色で塗り分けられる
に引き続いて,
(4)g個の穴があいているトーラス上の地図はどれもH(g)色で塗り分けられる
H(g)=[{7+√(1+48g)}/2]
を証明しました.
種数gのトーラスの彩色数が,2次不等式
x^2−7x+12(1−g)≧0
の解に帰着されることについては,コラム「ヒーウッドの公式について」をご参照ください.
[・]はガウス記号で,
g:1,2,3, 4, 5, 6, 7, 8, 9,10
H:7,8,9,10,11,12,12,13,13,14
となるのですが,しかし,ヒーウッドはg≧2に対してそのような地図が実在することを示すことはできませんでした.そのため,この問題は「ヒーウッド予想」と呼ばれることになりました.
1968年,リンゲルとヤングスは,g個の穴のあいているトーラス上にこれだけの色を必要とする地図が存在することを証明したのですが,ヒーウッド予想(1890年)が最終的に証明されるまでには77年もの歳月が必要だったというわけです.導出法についてはコラム「ヒーウッドの公式について」をご参照願います.
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