■等周不等式(その9)
古代ローマの叙事詩「アエネイス」に次のような物語があります.
『ディドーはフェニキアの王女であったが,弟のピグマリオンが彼女の夫を殺して王位に就いたため,臣下たちとともに脱出,地中海に面したアフリカの地に漂着した.その土地の支配者は,一頭の牛の皮を拡げただけの土地を売ってもよいとしぶしぶ約束した.ディドーはこの条件を最大限に活かすために,牛の皮を細く切り3ミリほどのひもにして,地中海の海岸線から半円を描き土地を囲んだ.こうしてカルタゴが建国され,ディドーはカルタゴの女王になった.』
平面凸集合に関して,周の長さLが一定で面積Aが最大の図形(面積が一定で周の最小な図形)は円であるという事実はよく知られています.そのことは
L^2≧4πA
という不等式(等周不等式)で表現されます.等号は円のときだけ成立します.
これは周の長さが一定という付帯条件を課して,面積を最大にするという変分問題の1種であって「等周問題」と呼ばれますが,変分法の起源とみなされている問題で,その答が円であることは古代ギリシアの時代からよく知られています.ところが,厳密な証明が与えられたのは19世紀になってからのことで,シュタイナーやシュワルツ,フロベニウスによるものなど,いくつかの証明があります.直観に反して,厳密な証明は簡単ではないのです.
同様に,3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとするとS^3≧36πV^2が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.立体図形のS^3/V^2は平面図形のL^2/Aの相当していて,等周比あるいは等周定数と呼ばれます.
等周不等式
L^2≧4πA,S^3≧36πV^2
をどんな次元にも適用できるように公式化すると
n次元表面積^n≧n次元体積^(n-1)n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)
等号は超球のときに限ります.
変分の問題は,幾何学の問題というよりも,解析学(微分積分学)の問題であって,18世紀半ばにオイラーとラグランジュによって,汎関数の最大・最小の問題を取り扱うための方法として基礎が固められました.変分は微分のアナローグであり,また,汎関数は関数を変数とする関数のことであって,関数の関数と理解されます.
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