■ディオファントス・フェルマー・ワイルズ(その43)
素数の分解の個数と重さ2の保型関数のq展開の関係をみた.今回のコラムでは,重さ1の保型関数のq展開を調べてみる.
===================================
【1】フェルマーが開いた類体論
特別な素数である2を除外して,素数は4で割ると余りが1になるもの(5,13,17,29,37,41,・・・)と3になるもの(3,7,11,19,23,31,・・・)の2種類に分けられます.このうち,4n+1の形の素数は2つの整数の平方の和として表されます.たとえば,
5=1^2+2^2,
13=2^2+3^2,
17=1^2+4^2,
29=2^2+5^2,
・・・・・・・・・
このように,4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在します.
(a^2+b^2)(c^2+d^2)=x^2+y^2
x=ac−bd,y=ad+bc
しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.
この定理はフェルマーの定理と呼ばれ,フェルマーは無限降下法でこれを証明しましたが,その証明は不十分で,100年後のオイラーによって完全な証明がなされています(フェルマー・オイラーの定理).
2平方和定理は「4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在する」でしたが,フェルマーはまた,
「pが8で割ると1または3余る素数ならば,p=x^2+2y^2」
「pが8で割ると1または7余る素数ならば,p=x^2−2y^2」
「pが3で割ると1余る素数ならば,p=x^2+3y^2」
となる自然数x,yが存在することを発見しました.p=x^2+y^2,p=x^2+2y^2,p=x^2−2y^2,p=x^2+3y^2,・・・などの発見は,類体論の序曲をなすものといえるのです.
x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)
x^2+2y^2=(x+y√−2)(x−y√−2)
x^2−2y^2=(x+y√2)(x−y√2)
x^2+3y^2=(x+y√−3)(x−y√−3)
ですから,それぞれ2次体
Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3)
と関係していることは容易に想像されます.
たとえば,Q(√2)においては,p=1,7(mod8)なる素数が
7=(3+√2)(3+√2)
17=(5+2√2)(5−2√2)
p=x^2−2y^2
Q(√−2)においては,p=1,3(mod8)なる素数が
3=(1+√−2)(1−√−2)
11=(3+√−2)(3−√−2)
p=x^2+2y^2
のように分解されます.こうして類体論の話に至るのです.
「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
===================================
【2】2次体における素数の分解
2次体における素数の分解
Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3),Q(√3)
はいずれも類数が1であって,これらの体の整数環は一意分解整域となります.したがって,素数は素イデアルの積としてただ1通りに表されます.
それに対して,Q(√−5)やQ(√−6)は類数が2であり,Z(√−5)やZ(√−6)は一意分解とは限らないことを意味しています.
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
類数1では,p=x^2+y^2,p=x^2+2y^2,・・・の形に書ける素数の場合,Q(√−1)やQ(√−2)においてpが完全分解するための必要十分条件
Q(√−1) ←→ 1(mod4)
Q(√−2) ←→ 1,3(mod8)
がそのままだったのに対して,類数2では,p=x^2+5y^2,p=x^2+6y^2,・・・の形に書ける素数に次のような現象が起こります.
p≠2,5でない素数とするとき
「pが20で割ると1または9余る素数ならば,p=x^2+5y^2」
p≠2,3でない素数とするとき
「pが24で割ると1または7余る素数ならば,p=x^2+6y^2」
すなわち,Q(√−5)において,pが完全分解するための必要十分条件
1,3,7,9(mod20)
Q(√−6)において,pが完全分解するための必要十分条件
1,5,7,11(mod20)
に較べて少しずれが生じてしまうのです.
===================================
【3】2次体を超えて
直角三角形は類体論の現れとも考えることができるのですが,
[参]加藤・黒川・斉藤「現代数学の基礎・数論1,2」岩波書店
では,類体論とは2次体ばかりでなく,2次体以外の体(3次体,4次体,円分体とその部分体,・・・)において素数の分岐,不分岐,完全分解の様子を一般化して,有理数体Qの拡大と素数の分解の様子を間の対応を語るものと解説されています.
類体論にはさまざまの分解法則をもつ体が登場するのですが,類体論によると,素数
p=1,9(mod20)
が完全分解するのはQ(√−5)ではなくて,K=Q(√−5,√−1)であって,そのときにx^2+5y^2となるx,yが存在する,また,素数
p=1,7(mod24)
はQ(√−6)ではなくて,K=Q(√−6,ζ3)で完全分解し,x^2+6y^2となるx,yが存在することになります.
さらに,素数pがx^2+26y^2の形に書けるかどうかは,どのような導手Nをもってしてもp=?(modN)で判定することができないこともわかっているようです.(x^2+26y^2なるx,yが存在するための必要十分条件は,p=1,3(mod8)かつp=1,3,4,9,10,12(mod13)となることである.)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[1]Q(3√2),Q(3√2,ζ3)の世界(重さ1の保型形式)
唐突ですが,3次式x^3−2の素因数分解
f(2)=2・3,f(3)=5^2,f(4)=2・31,
f(5)=3・41,f(6)=2・107,f(7)=11・31,
f(8)=2・3・5・17,f(9)=727,
f(10)=2・499,f(11)=3・443,
f(12)=2・863,f(13)=5・439,
f(14)=2・3・457,f(15)=3373,
f(16)=2・23・89
とデデキントのイータ関数(重さ1/2をもつモジュラー関数)を
η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)
とおいたときの無限積
F(z)=η(6z)η(18z)
=qΠ(1-q^6n)^2(1-q^18n)^2=q-q^7-q^13+q^25+2q^31-q^37+2q^43-q^61-q^67-q^73-q^79+q^81-q^97-q^103-2q^109+q^121+2q^127+q^133-q^139-q^151+2q^157-q^163-q^175-q^181-q^193-q^199-q^211+・・・
=Σa(n)q^n,q=exp(2πiz)
の関係についてみてみましょう.a(n)はF(z)のフーリエ係数です.
F(z)=η(6z)η(18z)=Σa(n)q^n,q=exp(2πiz)
は,
ad-bc=1,c=0(mod 108),d=1(mod 108)
なる任意の整数a,b,c,dに対して
F(az+b/cz+d)=(cz+d)F(z)
を満たすから,F(z)は重さ1の保型関数であり,オイラーの五角数定理を使うと
η(6z)η(18z)=Σ(-1)^(m+n)q^{(6m+1)^2+3(6n+1)^2}/4=Σa(n)q^n
apは2,0,−1のいずれかで
a(p)=0 ・・・p=2(mod3)
a(p)=2 ・・・p=1(mod3),p=x^2+27y^2
a(p)=-1・・・p=1(mod3),p≠x^2+27y^2
が得られます.このことから,p=3を除いてフーリエ係数が0になるのはp=3n+2型素数,フーリエ係数が2になるのはp=3n+1型素数に限られることがわかります.
ここで(すべてのフーリエ係数a(n)を眺めるのではなく)0と2の項だけを注目します.するとq^pの指数pで100以下のものだけをあげますが,
2,3,5,11,17,23,29,31,41,43,47,53,59,71,83,89
となっています.これらはすべてx^3−2の素因数になっているのですが,実際,両者は完全に一致するのです.
a(p)=2 ・・・Fpに2の3乗根が3個存在する
←→pはQ(3√2)で3つに,Q(3√2,ζ3)で6つに分解する.
31=(3+(3√2)^2)(3−33√2+(3√2)^2)(3+33√2+(3√2)^2)
31=(1−ζ3+3√2)((1−ζ3^2+3√2)(1−ζ3+3√2ζ3)((1−ζ3^2+3√2ζ3)(1−ζ3+3√2ζ3^2)((1−ζ3^2+3√2ζ3^2)
a(p)=0 ・・・Fpに2の3乗根が1個存在する←→pはQ(3√2)で2つに,Q(3√2,ζ3)で3つに分解する.
a(p)=-1・・・Fpに2の3乗根が存在しない←→pはQ(3√2)で分解しない,Q(3√2,ζ3)で2つに分解する.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[2]Q(4√−3),Q(4√−3,i)の世界(重さ1の保型形式)
4次式x^4+3の場合は
F(z)=η(12z)η(12z)
=qΠ(1-q^12n)^2=q-2q^13-q^25+q^25+2q^37+q^49+2q^61-2q^73-2q^97-2q^109・・・
=Σa(n)q^n,q=exp(2πiz)
F(z)は,
ad-bc=1,c=0(mod 144),d=1(mod 144)
なる任意の整数a,b,c,dに対して
F(az+b/cz+d)=(cz+d)F(z)
を満たすから,F(z)は重さ1の保型関数である.
apは2,0,−2のいずれかで
a(p)=2または-2 ・・・p=1(mod12)
a(p)=0 ・・・p=5,7,11(mod12)
a(p)=2 ・・・Fpに−3の4乗根が4個存在する
←→pはQ(4√−3)で4つに,Q(4√−3,i)で8つに分解する.
a(p)=-2 ・・・Fpに−3の4乗根が存在しない
←→pはQ(4√−3)で2つに,Q(4√−3,i)で4つに分解する.
a(p)=0,p=5(mod12) ・・・Fpに−3の4乗根が存在しない
←→pはQ(4√−3)で分解せず,Q(4√−3,i)で2つに分解する.
a(p)=0,p=7(mod12) ・・・Fpに−3の4乗根が2個存在する
←→pはQ(4√−3)で2つに,Q(4√−3,i)で4つに分解する.
a(p)=0,p=7(mod12) ・・・Fpに−3の4乗根が存在しない
←→pはQ(4√−3)で2つに,Q(4√−3,i)で4つに分解する.
x^4−2x^2+2の場合も複雑なので結果だけを示しておきます.
F(z)=η(8z)η(16z)
=Σ(-1)^(u+v)q^{(4u+1)^2+16v^2
=Σd(n)q^n,q=exp(2πiz)
とおくと
d(p^n)=e^n・(-1)^(p^n-1)/2・(n+1),e=2^(n-1)/2 (mod2)・・・p=1 (mod8)
d(p^2n)=(-1)^n・・・p=3 (mod8)
d(p^2n)=1・・・p=5,7 (mod8)
===================================