■ディオファントス・フェルマー・ワイルズ(その40)

 今回のコラムではフィボナッチ・フェルマーの方程式を拡張してみる.その方程式は小野孝先生によって広く研究されてきたものであるが,フィボナッチの問題,合同数問題(1220年)のような古く素朴な問題に対して,20世紀数学の様々な分野の強力で洗練された道具が必要とされることは実に驚くべきことであろう.

[参]小野孝「オイラーの主題による変奏曲」実教出版

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【1】フィボナッチの問題の拡張

 フィボナッチ・フェルマーの方程式

  x^2+y^2=z^2

  x^2−y^2=w^2

を拡張してみることにしましょう.

 より一般に

  x^2+my^2=z^2

  x^2+ny^2=w^2

の自然数解の有無を問うものですが,いってみれば連立の類体論のごとき問題です.

 その証明の筋道は

a)2つの2次曲面

  x^2+my^2=z^2

  x^2+ny^2=w^2

の交わりである射影空間P^3における曲線は,

  φ(x,y,z)=(y(z^2−mx^2)=x(z^2−ny^2),2xyz,y(z^2+mx^2),x(z^2−ny^2))

  ψ(x0,x1,x2,x3)=(1/m(x2−x0),1/n(x3−x0),x1)

とおいてみると,射影平面P^2における楕円曲線

  mx^2y−nyx2−(x−y)z^2=0

  y(z^2−mx^2)=x(z^2−ny^2)

と双正則同型になること(整数点は整数点に移る)

b)mx^2y−nyx2−(x−y)z^2=0において,x−y=1とおくと

  z^2=(n−m)x(x−1)(x−n/(n−m))

z=(n−m)^(1/2)yと変数変換すると

  y^2=x(x−1)(x−λ)   λ=n/(n−m)

さらに,λを(λ−1)/λに置き換えると,λ=m/n

  m=(λ1−λ3)/(λ0−λ3)

  n=(λ1−λ2)/(λ0−λ2)

 すなわち,この曲線は射影的に

  y^2=x(x−1)(x−λ),λ=n/(n−m)

と同値であること,したがって,j不変量は

  j=2^8(n^2−mn+m^2)^3/m^2n^2(n−m)^2

で表されること

c)楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっている(群構造)ことから,P=(x),Q=(y),P+Q=(z)=(z0,z1,z2)とすると(かなりの努力の後),

  z0=(x1y0−x0y1)(x0y0−2nx2y2)+(x0y2−x2y0)(x0y0−2mx1y1)+m(x1^2y0y2−x0x2y1^2)+n(x0x1y2^2−x2^2y0y1)

  z1=(x1^2y0^2−x0^2y1^2)+(x0^2y1y2−x1x2y0^2)+(2x0y0−mx1y1)(x2y1−x1y2)+n(x2^2y1^2−x1^2y2^2)

  z2=(x1x2y0^2−x0^2y1y2)+(x0^2y2^2−x1^2y0^2)+2x0y0(x2y1−x1y2)+m(x2^2y1^2−x1^2y2^2)

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 たとえば,m=5,n=−5とすると

  F=mx^2y−nyx2−(x−y)z^2

   =5x1^2x2+5x1x2^2+x1x0^2−x2x0^2=0

この上の点P=(x)=(x0,x1,x2)=(30,4,5)とすると,

  2P=(62279,11532,28812)

 次に

  φ(x,y,z)=(y(z^2−mx^2)=x(z^2−ny^2),2xyz,y(z^2+mx^2),x(z^2−ny^2))

を用いて,整数点φ(P),φ(2P)を計算すると,

  φ(P)=(41,12,49,31)

   →41^2+5・12^2=49^2

    41^2−5・12^2=31^2

  φ(2P)=(3344161,1494696,4728001,−113279)

   →3344161^2+5・1494696^2=4728001^2

    3344161^2−5・1494696^2=(−113279)^2

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【2】テータ関数の利用

 前節では平面楕円曲線の群構造を利用しましたが,この節ではヤコビの4つのテータ関数を利用して空間曲線:

  x^2+my^2=z^2

  x^2+ny^2=w^2

に直接群構造をいれてみることにします.以下,その解析的な証明の筋道だけを示します.

a)Θ(u)=(θ0(z),1/√kθ1(z),√k'/kθ2(z),√k'θ3(z))

      =(x0,x1,x2,x3)

  k=(θ2(0)/θ3(0))^2

  k’=(θ0(0)/θ3(0))^2

  √k’/k=θ0(0)/θ2(0)

と定義すると,テータ関数の加法公式より,

  x0^2−x1^2=x2^2

  x0^2−k^2x1^2=x3^2

なる写像を得る

 さらに,Θ(u)=x,Θ(u’)=y,Θ(u+u’)=zとおくと

  z=(x0^2y0^2−k^2x1^2y1^2,x0x1y2y3+x2x3y0y1,x0x2y0y2−x1x3y1y3,x0x3y0y3−k^2x1x2y1y2)

b)λ=n/mとおくと,k^2(τ)=λなるτが固定される.すなわち,m,nを固定することはτをひとつ適当に固定することに相当し,群構造が確定する

 たとえば,m=5,n=−5とすると,前節でみたようにx=(41,12,49,31)は空間曲線上の点であり,

 2x=(x0^4+25x1^4,2x0x1x2x3,x0^2x2^2+5x1^2x2^2,x0^2x3^2−5x1^2x2^2)=(3344161,1494696,4728001,−113279)についても同様.

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【3】可解性条件

 これまで(m,n)=(5,−5)には自然数解があることが得られましたが,

a)(m,n)=(1,−1)には自然数解は存在しないことの証明がフィボナッチ・フェルマーの定理であること

(y>0,x,z,wはすべて≧0としてよい.x^2+y^2=z^2よりz>0.またここでx>0.もしx=0ならばx^2−y^2=−y^2=w^2<0となり矛盾.またw>0.もしw=0ならばx^2−y^2=w^2=0より,x=y.これをx^2+y^2=z^2に代入すると2x^2=z^2となり矛盾.したがって,非自明解があるとすると自然数解ができてしまい,フィボナッチ・フェルマーの定理に矛盾する.)

b)自明な解を除いて(m,n)=(1,2)には自然数解がない,一方,(2,6)には自然数解,たとえば,(x,y)=(1,2),(191,60)などがあることが帰結として導かれます.

  1^2+2・2^2=3^2,1^2+6・2^2=5^2

  191^2+2・60^2=209^2,191^2+6・60^2=241^2

 拡張したフィボナッチ・フェルマーの方程式

  x^2+my^2=z^2

  x^2+ny^2=w^2

の自然数解の有無については部分的な解答が得られているだけで,完全な解決(一般的な可解性条件)はまだ得られていませんが,わかっていること,予想されていることについてまとめておきましょう.

a)(m,n)=(1,2n^2−1) (n≧2)には非自明解がある

b)(m,n)=(m,2−m) (m≠0,1,2)には非自明解がある

c)(m,n)=(k,−k) (kは分離的数)の場合,

   k=1,k=2→自明解のみ

   k=3(mod8)→自明解のみ

   k=5,6,7(mod8)7→非自明解がある

k=1,2(mod8)→どちらの場合もある

 kが分離的とはp^2|kなる素数pがないこと,すなわち,k=±p1p2・・・pn,pi≠pjと因数分解されることである(k=±1は分離的,k=1は平方数であり分離的数である唯一の整数).

 k=5,6,7(mod8)7→非自明解がある

という予想は,BSD予想からも自然にでてくるものであるという.

d)(m,n)=(k,−k)に非自明解がある場合,

  kc^2=ab(a^2−b^2)  (a,b)=1,a≠b(mod2)

を満足するa,b,cに対して,

  x=(a^2+b^2,2c,a^2−b^2+2ab,a^2−b^2−2ab)

は非自明解を与える.

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