■ディオファントス・フェルマー・ワイルズ(その39)

  y^2=x^3−x=x(x+1)(x−1)

は楕円曲線であり,y^2=x^3−xの有理点は点(0,0)(±1,0)のみである.実は,命題「x^4+y^4=z^4をみたす自然数は存在しない」は命題「y^2=x^3−xの有理数解は(x,y)=(0,0),(±1,0)のみである」に帰着できる.x^4=z^4−y^4の両辺にz^2/y^6をかければ

  (x^2z/y^3)^2=(z^2/y^2)^3−(z^2/y^2)

したがって,x^4+y^4=z^4をみたす自然数は存在しないのである.

 今回のコラムでは,楕円曲線

  y^2=x^3−A^2x=x(x+A)(x−A)

の問題を扱うことにする.

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【1】フィボナッチの問題

 ピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2には無数の自然数解があるのですが,それでは連立2次のディオファントス方程式:

  x^2+y^2=z^2

  x^2−y^2=w^2

の自明でない自然数解を考えてみましょう(フィボナッチの問題).

 ただし,(1,0,±1,±1)などの自明な解は必ずあるわけですから,どのx,y,z,wも0でないものとします.

 実は,そのような答えをもたないことがフェルマーによって証明されていて,それがフィボナッチ・フェルマーの定理と呼ばれます.フィボナッチは西暦1200年頃,解は存在しないことを予想していたのですが,400年後にフェルマー得意の無限降下法によって証明が与えられました.すなわち(x,y,z,w)の最大公約数が1である任意の原始解を定めるとx’<xなる第2の原始解,x”<x’なる第3の原始解,・・・ができて矛盾を生じてしまうのです(要するに数学的帰納法).

 さらに,この定理を応用すると,

「3辺の長さが自然数であるような直角三角形と同じ面積をもつ,辺の長さが自然数の正方形は存在しない(x^2+y^2=z^2,xy=2t^2)」

「x^4−y^4=z^2の自然数解はない」

「x^4+y^4=z^4の自然数解はない(n=4の場合のフェルマー予想)」

などが証明できます.

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【2】合同数問題

 正の整数Aが3辺が有理数の直角三角形の面積になっているとき,すなわち,A=ab/2,a^2+b^2=h^2のとき,合同数と呼ばれる.

 合同数をすべて求めること,あるいは与えられた正の整数Aが合同数であるかどうかを判定することは古代からの問題であった.たとえば,6は直角三角形(3,4,5)の面積,30は直角三角形(5,12,13)の面積であるから合同数である.最小の合同数は直角三角形(3/2,20/3,41/6)の面積5である.1が合同数ではないことはフェルマーが証明した.7が合同数であることを示したのはオイラーである.

 合同数問題を同値な形で言い換えると,「Aを与えるとき,有理数xでx^2+Aとx^2−Aがともに有理数の平方となるものを見つけることができるか」になる.すなわち,(平方因子をもたない)正の整数Aが合同数であるための必要十分条件は

  x^2+Ay^2=z^2

  x^2−Ay^2=w^2

が整数解でy≠0のものをもつことである.A=1のときがフィボナッチの問題である.

 2つの方程式をかけると

  (zwx/y^3)^2=(x^2/y^2)^3−A^2(x^2/y^2)

を得る.

 合同数問題における整数Aの性質と楕円曲線:

  y^2=x^3−A^2x=x(x+A)(x−A)

  Aは合同数←→y^2=x^3−A^2xは無限個の有理点をもつ

との関連については

   J.S.Chahal「数論入門講義」共立出版

などを参照していただきたいのであるが,わかっていることをまとめると,

[1]Aが分離的数の場合,

   A=1,A=2→自明解のみ

   A=3(mod8)→自明解のみ

   A=5,6,7(mod8)7→非自明解がある

A=1,2(mod8)→どちらの場合もある

 Aが分離的とはp^2|Aなる素数pがないこと,すなわち,A=±p1p2・・・pn,pi≠pjと因数分解されることである(A=±1は分離的,A=1は平方数であり分離的数である唯一の整数).

 k=5,6,7(mod8)7→非自明解がある

という予想は,BSD予想からも自然にでてくるものであるという.

[2]非自明解がある場合,

  Ac^2=ab(a^2−b^2)  (a,b)=1,a≠b(mod2)

を満足するa,b,cに対して,

  x=(a^2+b^2,2c,a^2−b^2+2ab,a^2−b^2−2ab)

は非自明解を与える.

 A=1,2,3,4は合同数ではなく,A=5,6,7は合同数であるが,与えられた正の整数Aが合同数であるかどうかを判定する手順については

[3]タンネルの定理(1983)

 Aを平方因子をもたない正の奇数とすると,Aが合同数ならば

  2x^2+y^2+8z^2=Aを満たす(x,y,z)の組数は,2x^2+y^2+32z^2=Aを満たす(x,y,z)の組数の2倍に等しい.(BSD予想が正しいならば逆も成立する.)

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【3】y^2=x^3−x on Fp

 演算表は割愛しますが,(その2)で示したように,Fpでの整数点の個数をNpとすると

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  2  3  7  7  11   7  15  19  23

となります.

 また,q=exp(2πiz)とおいて,関数

  F(z)=qΠ(1-q^4n)^2(1-q^8n)^2=q-2q^5-3q^9+6q^13+2q^17-q^25-10q^29+・・・

   =c(n)q^n,q=exp(2πiz)

を考えます.c(n)はF(z)のフーリエ係数です.

  n  1  5  9 13  17  25  29

  c(n) 1 −2 −3  6   2  −1 −10

 F(z)は,モジュラー

  ad-bc=1,c=0(mod 32,すなわち32の倍数)

なる任意の整数a,b,c,dに対して

  F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)

を満たします.このとき,F(z)は重さ2の保型形式をもつといいます.とくに,

  a=1,b=1,c=0,d=1

のとき,F(z+1)=F(z)となって,実軸方向に周期1の関数になっていることがわかります.

 素数だけに注目して,Npとc(p)をひとつの表にすれば

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  2  3  7  7  11   7  15  19  23

  c(p) 0  0 −2  0   0   6   2   0   0

 すなわち,

  Np+c(p)=p

という関係があることがわかります.Npは楕円曲線からの数列,c(p)は保型形式からの数列というまったく違った由来をもっているのに深いところで関連があるというわけです.このような対応がすべての楕円曲線について存在するというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.

 こみいった話になるのですが,F(z)のフーリエ係数c(n)を使って,ディリクレ級数

  φ(s)=Σc(n)/n^s

を定義します.ディリクレ級数はリーマンのゼータ関数

  ζ(s)=Σ1/n^s

を一般化したものです.そして,楕円曲線Eに対してよい還元になる素数を使って,代数的ゼータ

  L(s;E)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)

を定義します.一方,解析的ゼータを

  L(s;F)=Σc(n)/n^s=Σc(n)q^n

で定義します.このとき,すべての素数に対して「解析的ゼータ=代数的ゼータ」が成り立つというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.

 a^p+b^p=c^pを満たすような半安定な楕円曲線:

  y^2=x(x+a^p)(x−b^p)

が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,ワイルズは「半安定」なという制限付きの谷山予想を証明することによってフェルマーの最終定理が解決しました.すなわち,楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示したというわけです.その後,谷山予想は1999年に完全に証明され,定理となりました.

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【4】y^2=x^3−n^2x on Fq

 各素数に対して,p個の元からなる有限体Fpが存在する.任意の素数pと整数rが与えられたとき,q=p^r個の元からなる有限体Fqはただ一つ存在し,Fq≧Fpである.

  y^2=x^3+ax+b  (a,b<Fq)

のFq×Fqにおける解の個数Npは無限遠点とともに,位数Np+1のアーベル群をなす.アルチンは1924年に

  |Np−p|≦2√p

を予想した.この予想は1936年にハッセによって証明された.

 pが2nを割らないとき,Fp上で定義された楕円曲線をEn:y^2=x^3−n^2xとおく.q=p^r,q=3(mod4)のとき,Fq有理点はq+1個存在する.

  #En(Fq)=q+1

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