■ディオファントス・フェルマー・ワイルズ(その1)
今回のコラムでは,
[参]志賀弘典「数学の視界」数学書房
から,ディオファントス方程式における定理をいくつかピックアップしてみました.
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【1】フェルマーの主張(その1)
整数解を要求する2変数1次方程式ax+by=c,2変数2次方程式ax^2+by^2=c(a,b,cは整数)などは,ギリシャのディオファントスにちなんでディオファントスの不定方程式と呼ばれます.
たとえば,y^2=x^3−2の整数解について,ディオファントスはy=t+1,x=t−1とおき,y^2=x^3−2に代入するとt^2+2t+1=t^3−3t^2+3t−3.この式はt(t^2+1)=4(t^2+1)と変形できるので,t=4すなわちy=5,x=3が解であるとしています.
しかし,端的にいって,このような解き方にはアート(技巧)はあってもセオリー(一般的理論)がなく,勘や経験や個々の問題の性質に負っていて,決定打ではありません.問題はこの型の不定方程式に対するすべての整数解,あるいは有理数解を求めることですが,フェルマーは方程式y^2=x^3−2は(x,y)=(3,±5)以外に整数解をもたないということを主張しています.
これについては2次体Q(√2)における整数の素因数分解から導かれますが,次に述べるジーゲルの定理の1例となっています.
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【2】ジーゲルの定理(1929年)
「整数係数の楕円曲線上には整数解が有限個しかない.」
これを証明したのはジーゲルで,その定理はジーゲルの有限性定理(1929年)と呼ばれています.したがって,3次曲線ax^3+by^3=cや楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dなど,3次以上の不定方程式には一般に整数解が有限個しかないことになります.この定理により,すべての2変数多項式の可解性が決定したわけではありませんが,少なくとも2変数2次多項式の可解性条件はわかったことになります.
なお,楕円曲線y^2=x^3−x+9上には±(0,3),±(1,3),±(1,−3),±(9,27),±(35,207),±(37,225),±(46584,10054377)および無限遠点の計15個もの整数点が見つかるとのことです.
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【3】モーデル・ファルティングスの定理(1983年)
1920年,イギリスの数学者モーデルは
ax^4+bx^3z+cz^2y^2+dx^3y+cy^4=0
のように3変数4次不定方程式には整数解が有限個しかない,さらに4次以上何次になってもそうであろうと予想しました(モーデル予想).
変数を複素数の範囲で考えると,楕円曲線y^2=x^3−x+9はトーラス,x^4+y^4−1=0は3重トーラスになるのですが,浮輪の穴の数によって方程式の解の様子が変化していくことをモーデルは予想したのです.
モーデル予想は50年以上にわたって未解決であったのですが,1983年,ドイツの数学者ファルティングスがこの予想を解決しました.
「種数が2以上の代数曲線(超楕円曲線)は有理点を有限個しかもたない.」
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【4】フェルマーの主張(その2)
フェルマーの最終定理『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』を解くことは,2変数n次多項式f(x,y)=x^n+y^n−1=0に,有理数解があるか,すなわち有理点をもつかどうかを考える問題に対応します.
モーデル・ファルティングスの定理によってフェルマーの方程式に解があるとすれば高々有限個しか解がないことはわかりましが,1つもないかどうかはわかりません.しかしながら,モーデル・ファルティングスの定理より,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.
また,リーマン・フルヴィッツの公式より,フェルマー曲線x^n+y^n=1は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.
こうして,1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.
a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:
y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきましょう.(楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのである.)
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【5】オイラー予想とその反例
オイラーは,フェルマー予想の条件をゆるめて一般化した問題
『x1^n+x2^n+・・・+xn-1^n=xn^n,たとえば,x^4+y^4+z^4=w^4にも自然数解がない』と予想しました.この不定方程式には整数解がないであろうことが長い間予想されていて,モーデルはコンピュータを使ってw<220000の範囲でこの問題は成立することを紹介しています.
オイラーの予想は正しいと信じられてきましたが,オイラーの推測からおよそ200年後,コンピュータを使って
27^5+84^5+110^5+133^5=144^5 (1966年)
95800^4+217519^4+414560^4=422481^4 (1988年)
2682440^4+15365639^4+18796760^4=20615073^4 (1988年)
などのオイラー予想に対する反例が発見されました.
反例が現れる網を絞り込んで,最後にコンピュータを使ってこの例を仕留めたのです.さらに,エルキースにより,x^4+y^4+z^4=w^4には無数の解があることが楕円曲線の理論に基づいて示されました(1988年).
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