■フェルマーが考察した3つの問題(その3)

[1]3辺の長さがすべて整数、かつ面積が平方数の直角三角形は存在するか?

[2]y^2=x^3-xの(0,0),(±1,0)以外の有理数解をもつか?

[3]方程式x^4+y^4=z^4は自明でない整数解をもつか?

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【3】代数曲線の種数と双有理変換

 射影変換は高次の曲線に対しては非力なので,より強力な双有理変換を用いて,2次曲線と射影直線とを同一視できるようになれば,それは射影幾何を超えて代数幾何の立場に立つことになります.そして,種数の概念は,曲線の特異点を双有理変換を行って解消できるか否かに依っています.

 ところで,曲線上の有理点全体を1つの変数の有理式として表すことのできる曲線を有理曲線といいます.2次曲線は有理点を無限にもつか,1つももたないかのどちらかであって,現在では,2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.

 3次曲線の場合はどうでしょうか? (1)(2)の3次曲線は重根をもち,原点(0,0)が特異点になります.そのため,この曲線上のすべての有理点をパラメトライズすることができます.たとえば,

  y^2=x^3 → (t^3,t^2)

  y^2=x^2(x−1) → (t^2+1,t(t^2+1))

 4次曲線の例も挙げましょう.レムニスケート(双葉曲線)は8の字形(8を90°回転させ横向きにした∞形)をしていて,その直交座標系での方程式は4次曲線(x^2 +y^2 )^2 =(x^2 −y^2 )になります.レムニスケートも特異点をもち,

  x=t(t^2+1)/(1+t^4 )

  y=t(t^2−1)/(1+t^4 )

のように有理点をパラメトライズすることができます.

 一般に,f(x,y)=0が3次式・4次式のとき,その曲線上に特異点と呼ばれる点が存在するかどうかで,曲線のもつ性質が大きく異なってきます.(1)(2)やレムニスケートはそのような例ですが,それに対して,(3)のように,3次曲線が異なる3根をもつ有理係数の多項式の場合は,楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で,2次曲線とは本質的に異なってきます.

 2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線(有理曲線)と呼びます.与えられた曲線が有理曲線かどうかを判定するには曲線の種数を求めればよく,それが0なら有理曲線になります.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.2次曲線はすべて有理曲線ですが,楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.すなわち,円錐曲線の有理点は無限ですが,楕円曲線の有理点は有限です.

 次数が高いとき曲線は見かけ上複雑になりますが,その曲線の「種数」が小さければ,曲線は双有理変換で簡単なものになります.その意味で,次数よりも種数の方が曲線の本質的な複雑さを表現していると考えられます.

 たとえば,モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは,「種数が2以上の代数曲線(超楕円曲線)は有理点を有限個しかもたない.」というものです.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.また,リーマン・フルヴィッツの公式より,フェルマー曲線x^n+y^n=1は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.

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