■球殻と高次元立方体の体積(その10)

【3】体積と表面積

 球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,nが小さいとき,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)となることはご存知でしょう.n次元単位球はどんなに次元が高くても,長さが2より大きな線分を含むことはできません.

 n次元単位超球の体積Vnとすると,半径rのn次元球の体積はVnr^n,表面積は球殻部分の極限値(δ→0)と考えられ

  d/dr(vnr^n)=nVnr^(n-1)

となりますから,n次元単位超球の表面積を表面積Sn-1とすると,

  Sn-1=nVn

 n次元単位超球の体積Vnを求めてみると,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

を得ることができます.また,Γ(m+1)=m!より,この結果は,形式的に

  Vn=π^(n/2)/(n/2)!

と書くことができます.

 Vn-1がわかれば,Vnは漸化式:

  Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式

  Vn/Vn-2=2π/n

を用いると任意のnに対して

  nが奇数であれば,Vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!

  nが偶数であれば,Vn=(2π)^(n/2)/n!!

とも書けることも理解されます.

 係数はπ^mの有理数倍で,1次元から6次元までを具体的に書けば,

  Vn=2,π,4π/3,π^2/2,8π^2/15,π^3/6

という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.

 そして,n→∞のとき,

  Vn/Vn-2=2π/n→0

  Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0

ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.

 しかもそれは直径を1辺とする超立方体と比べて無視できるほど小さくなります.n次元単位超立方体[-1,1]^n(体積2^n)において,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.高次元において,超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に大部分のデータは超球外に位置することになります.

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 nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,1次元から14次元までの具体的数字は次の通りです.

n Vn n Vn n Vn

1 2 6 5.168 11 1.884

2 3.142 7 4.725 12 1.335

3 4.189 8 4.059 13 0.911

4 4.934 9 3.299 14 0.599

5 5.264 10 2.550

 このように,超球の体積はn=5のとき最大8π^2/15=5.2637・・・となり,以後は次元とともに急激に減少します.(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)幾何学では5,6次元を境にして本質的に様子が変わっていることが少なくないのですが,このことはその原因の一端をほのめかしていると考えられます.

 超球の体積はn=5のとき最大(8π^2/15)であり,それに対して表面積nvnが最大(16π^3/15)になるのはn=7のときです.どちらもnが大きくなると急激に0に近づきます.

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