■円周率の計算(その18)

【1】ゼータ関数とリーマン予想

 オイラーによって考え出されたこの関数はまったく思いがけないほど多くの数学の分野と関連することになりました.オイラーの100年後,リーマンはオイラーが研究したゼータ関数を複素数へと広げました.

 ゼータ関数の不思議なところはsをどんな複素数にしても意味をもつという点です.これを解析接続可能といい,実解析関数の変数を複素数に拡張することにより,未知の世界が開けてきます.ところが,これにより,

ζ(0)=1+1+1+1+・・・=−1/2

ζ(−1)=1+2+3+4+・・・=−1/12

ζ(−2)=1^2+2^2+3^2+4^2+・・・=0

ζ(−3)=1^3+2^3+3^3+4^3+・・・=1/120

ζ(−4)=1^4+2^4+3^4+4^4+・・・=0

 正数の無限級数の総和が負や零になって,一見して目がくらんでしまいます.これらは普通の意味では無限大になっているはずですが,一体何を意味しているのでしょうか?

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 無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを,物理学の用語で「繰り込み」といいますが,これらの式は現代数論では当然のことのように使われています.パラドックスを引き起こした謎は,複素関数論の解析接続にあって,sを複素変数とするとき,ζ(s)をすべての複素数に対して意味をもたせることができ,もっと,詳しく述べるならば,複素平面上での特異点を避けながら,各経路で級数展開していくと上記の結果が得られます.

さらに,

  ζ(0)=−1/2,ζ(−2n)=0,ζ(1−2n)=−B2n/2n

すなわち,sを0とすると値が−1/2,,sを−1とすると値が−1/12,−2,−4,・・・,−2nとすると値が0になるというわけですが,これらによって,負の整数に対するゼータ関数の値は有理数で与えられること,負の偶数での値が0であることが理解されます.

 正の偶数での値を調べることは負の奇数での値を調べることと本質的に同じです.負の奇数での値を書き出してみると,

ζ(−1)=−1/12

ζ(−3)=1/120

ζ(−5)=−1/252

ζ(−7)=1/240

ζ(−9)=−1/132

ζ(−11)=691/32760

ζ(−13)=−1/12

と続きます.

 これらの計算の仕方を紹介すると

φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また,

f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる.

 また,ζ(s)の零点がs=−2,−4,・・・,−2nとs=1/2+tiの線上にあるというのが有名なリーマン予想ですが,この予想は一部に素数定理なども含む数学上の難問です.

 数学の巨人と称されるヒルベルトは,1919年に数学の難問について講義し,「リーマン予想は私が生きているうちに解決され,フェルマー予想は長らく未解決のままであろう」と述べたといわれています.360年ものあいだ未解決の数学的難問であったフェルマー予想は最近(1994年)ワイルスによって証明されました.しかし,ヒルベルトの推測に反し,リーマン予想は依然としてデッドロック状態にあります.

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