■円周率の計算(その7)
任意のarctan(1/n)を2項に分解することを考えてみます.
arctan(1/n)=arctan(1/p)+arctan(1/q)
公式
arctana+arctanb=arctan((a+b)/(1−ab))
を使うと,
1/n=(1/p+1/q)/(1−1/pq)
n=(pq−1)/(p+q)
q=(np+1)/(p−n)
ここで,p=n+mとおくと
q=n+(n^2+1)/m
arctan(1/n)=arctan(1/(n+m))+arctan(m/(n^2+mn+1))
したがって,n^2+1=kmなるkが存在するならばqは整数になることがわかります.
逆に,n^2+1=kmのときだけ
arctan(1/n)=arctan(1/(n+m))+arctan(1/(n+k))
が成り立つのですが,n^2+1=kmとなるのはどのようなときなのでしょうか?
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【1】ガウス整数
a,bを整数として
a+bi
で表される複素数が「ガウスの整数」です.ガウスの整数は和と積の演算に関して閉じています→「ガウスの整数環」.
また,すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,1の4乗根である
±1,±i
の4個の単数があります.ガウス整数は正方形の対称性をもつ正方格子をなします.
素数は複素数体でも定義されますが,ガウス素数とはそのノルムが通常の素数であるようなガウス整数のことです.数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.
4k+3型素数はやはりガウス素数ですが,2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されるのです.
2=(1+i)(1−i)=i(1−i)^2
5=(1+2i)(1−2i)
29=(5+2i)(5−2i)
ガウス素数を列挙すると
1±i,3,2±i,7,11,3±2i,4±i,19,23,5±2i,31,・・・
となりますが,
1±i,2±i,3±2i,4±i,5±2i
はそれぞれ2,5,13,17,29,・・・すなわち,2および4k+1型素数に対応するガウス素数ということになります.
また,a+biがガウス素数ならばその共役a−biやそれに単数±1,±iを掛けたb±aiなど計8通りもガウス素数ですが,単数の違いを除いて,その表し方は本質的に1通りというわけです.
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【2】ガウスの素因数分解
[1]たとえば,5+iでは
(5+i)(5−i)=5^2+1=26=2・13
2→1±i,13→3±2i
です.複素数の掛け算は偏角の足し算に対応しますから,偏角を幾何学的に考慮することによって
5+i=(1+i)(3−2i)
と素因数分解することができます.
[2]70+iでは
(70+i)(70−i)=70^2+1=4901=13^2・29
13→3±2i,29→5±2i
ですから
70+i=i(3−2i)^2(5−2i)
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【3】ステルマー分解
n±i
はガウスの整数ですが,ここではa+biではなく,n±iなる複素数を使って分解することを考えます.
冒頭に掲げたことより,n^2+1=kmなるkが存在するならばqは整数になりますが,そのようなmは2と4k+1型素数の積,あるいは,n^2+1の約数として表現できることがわかります.
m=1,2,5,10,13,17,25,26,29,34,37,41,50,53,58,61,65,73,74,82,85,89,97,・・・
mではなくnについては,n^2+1の最大素因数pが2n以上となる正整数nをステルマー数と呼びます.n=3のとき,3^2+1=10=2・5→p=5ですから,3はステルマー数ではありません.同様に,
n=7 7^2+1=50=2・5^2 → p=5
n=18 18^2+1=325=5^2・13→p=13
n=57 57^2+1=3250→p=2・5^3・13→p=13
n=239 239^2+1=2・13^4→p=13
もステルマー数ではありません.一方,n=2のとき,2^2+1=5→p=5ですから,2はステルマー数です.
最初の30個のステルマー数nとそれに対応する最大素因数pは,
n p n p n p
1 2 15 113 28 157
2 5 16 257 29 421
4 17 19 181 33 109
5 13 20 401 34 89
6 37 22 97 35 613
9 41 23 53 36 1297
10 101 24 577 37 137
11 61 25 313 39 761
12 29 26 617 40 1601
14 197 27 73 42 353
[1]5はステルマー数ですから,5+iのステルマー分解はそれ自身になります.
[2]70+iでは
(70+i)(70−i)=70^2+1=4901=13^2・29
ですから,70はステルマー数ではありません.
12±i→12^2+1=5・29
となることから,29でn^2+1が割り切れる最小のnは12です.すなわち,最初のステルマー数は12になります.
ステルマー分解を求めるには,nがステルマー数となっている数n±iを元の数a+biに繰り返し掛けていきます.このとき,符号は対応する素数pをキャンセルできるように選びます.この例では
(70+i)(12+i)=839+82i→×
(70+i)(12−i)=841−58i=29(29−2i)
ですから,
(70+i)(12−i)=29(29−2i)
5±i→5^2+1=2・13
より,13でn^2+1が割り切れる最小のnは5です.すなわち,次のステルマー数は5ですから,
(70+i)(12−i)(5+i)=29(29−2i)(5+i)=29(147−19i)→×
(70+i)(12−i)(5−i)=29(29−2i)(5−i)=29(143−39i)=377(11−3i)
同様のことを繰り返すと
(70+i)(12−i)(5−i)(5−i)=377(11−3i)(5−i)=9802(2−i)
2はステルマー数ですから,これですべてステルマー数に対応する複素数となりました.実数の偏角はすべて0です.したがって,偏角については
arctan(1/70)−arctan(1/12)−2arctan(1/5)=−arctan(1/2)
が成り立つことがわかります.
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