■デューラー・ケプラー・ペンローズ(その17)

周期的な平面充填に対して,平行移動の周期がない非周期的平面充填についても多くの研究がなされています.現在のところ,1974年に,イギリスの数理物理学者ペンローズの発見した2種類の菱形を組み合わせて平面を隙間なく,かつ,非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.ペンローズタイルと呼ばれるこの敷きつめかたは,局所的には正五角形のような5重の対称性がありますが,全体としては対称性をもちません.

[1]ペンローズ・パターン(P1,P2,P3)

ある規則にしたがって並ぶが,平行移動による周期性のない模様を考える.イギリスの数理物理学者ペンローズは2種類以上のタイルを使ってもよいとした場合,非周期的にも平面を埋め尽くすことができるかという問題を考えた.その解答例が,正五角形,星形正五角形,菱形,帽子形の4種類の基本図形からできていて,自己相似性を有する模様である.

P1: 正五角形,星形正五角形,菱形,帽子形の4種類の基本図形からできている.

その後,ペンローズは4種類の基本図形を2種類に減らした.

P2: 凧と矢.魚の尻尾みたいな凹四角形と凧形(凸四角形)の2つの構成要素からなる.矢の方が多くて黄金比に近づいていく.両者の面積比も黄金比である.

凧と矢を用いたペンローズの非周期的タイル貼りは5回回転対称が現れる.凧と矢よりも2種類の菱形で代替した方がわかりやすいが,パターン全体にわたって正十角形が現れる.1974年,ペンローズは2種類の菱形による非周期的平面充填を発見した.この2種類の菱形を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.

P3: 太った菱形(72°,108°)とやせた菱形(36°,144°)2種類の菱形を組み合わせ.最小の内角は36°であり,他の角はすべてその整数倍で,太めの菱形と細めの菱形の面積比は黄金比φになっています.また,1辺の長さを1とすると太めの菱形の対角線の長さはφ,細めの菱形の対角線の長さは1/φ,さらに,太めの菱形と細めの菱形の個数の比もφとなり,5回対称性のなかには黄金比φが潜んでいます.

2種類の菱形は正十角形の中心角π/5から導かれたもので,5回回転対称が現れる.この2種類の菱形を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.あとになって,この図形が5次元超立方格子の断面になっていることがド・ブリュインによって示されることになる.

ペンローズ・タイルの3次元版が黄金菱形6面体による,非周期的空間充填である.その後,ペンローズ模様はマッカイによって,3次元図形に拡張される.また,1984年,シェヒトマンが5回対称性を有する合金がこの3次元図形を元に理解することができることを示し,2012年のノーベル賞に繋がった.非周期模様は今日に至っても爆発的に研究がなされている.

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