■高次元結晶の世界(その4)
【3】高次元結晶の局所幾何学
ワイソフ算術を用いることによって,4種類の高次元結晶を構成することができた.それらは[1]ミンコフスキー結晶(2(2^n-1)胞体),[2]体心立方格子型結晶(2^n+2n)胞体),[3]面心立方格子型結晶(2n(n-1)胞体),[4]六方最密充填型結晶(n(n+1)胞体)である.[3][4]は二胞角が120°で一定であることから高次元の「雪の結晶」とみなすことができる.
当の本人にはこれですっかり安心した気分になっていたのだが,次なる問題が発生した.結晶状態で[1]の頂点の周りにはn+1個の結晶粒子が集まるのであるが,[2][3][4]ではそれがわからないのである.
その問題を解決してくれる方法が局所幾何学である.局所幾何学の結果は大域幾何学からは導出できないので,両者は本質的・実質的に異なる幾何学と考えられるが,形式的・名目的にはほとんど同じ算法が使える.たとえば{33334}(010110)の頂点周りのfベクトルは(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(1,8,22,29,20,7)と計算される.
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【4】結晶の力学的安定性
ひとつの頂点の周りに集まる結晶粒子数は結晶の力学的安定性と密接に関係している.たとえば,3次元結晶の場合,点と点・線と線だけで接触するのは不安定性で,面と面で接触するほうが安定である.また,接触する面数が多くなると,ひとつの面あたりの接触面積が減り辺接触に近い状態となるので,これも不安定性の原因となる.結局,ひとつの頂点周りに集まるファセット数の少ない[1]すなわち2次元6角形,3次元14面体,4次元30胞体,5次元62房体が最も安定な形であることが示される.
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【5】参考文献
F.A. Sherk et al, Kaleidoscopes, Selected Writings of H.S.M. Coxeter, John Wiley(1995)
乙部融朗「準正多体胞」,私家版(2014)
石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに関する研究」,京都大学学位論文(1999)
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