■高次元結晶の世界(その2)

 空間での等長変換は平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類であるから,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるが,変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからである.同様に,4次元結晶群は4783種類(4895種類)存在するが,5次元では膨大すぎて,そのリストアップはまだ完成していない.

 このなかから,高次元でも普遍的に存在するn次元結晶を2種類取り上げたい.それらは体心立方格子型空間充填をもたらす2^n+2n胞体(以下,BCC結晶)とミンコフスキーによって発見された原始的空間充填2(2^n−1)胞体(以下,ミンコフスキー結晶)である.それらの基本計量(k次元面数や体積など)はワイソフ情報を1種の遺伝子として解読することによって計算できる.

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【1】ミンコフスキー結晶

 n次元空間充填では,どの頂点でも最低n+1個の多面体が出会わなければならない(ルベーグの舗石定理).すべての頂点でn+1個の多面体が出会う場合,空間充填図形の面数は最大2(2^n−1)個となる(ミンコフスキーの舗石定理).すなわち,ミンコフスキー結晶は2次元では6角形,3次元では14面体,4次元では30胞体,5次元では62房体となり,この形が力学的にも安定な形と考えられる.

 14面体である切頂八面体は正方形面を上にして置くと正八面体を切頂した図形にみえるが,正六角形面を上にして置くと正四面体を切頂・切稜した図形になっていることがわかる.同様に,4次元では4次元正単体の切頂・切稜操作により,頂点が切頂八面体,辺が六角柱の30胞体となる.このように,4次元の空間充填の基本形は30胞体となるのだが,一般にn次元空間のミンコフスキー結晶は正単体を切稜・切頂した頂点数(n+1)!,ファセット数

  Σ(k=0~n-1)(n+1,k+1)=2^(n+1)−2

の図形となる.

 この図形のもうひとつの特徴は単純多面体であること,平行な辺がn(n+1)/2組あることから,n(n+1)/2次元の立方格子のn次元への射影になっていることである.すなわち,切頂八面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていると考えることができる.

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【2】BCC結晶

 ミンコフスキー結晶はn次元正単体を切稜・切頂することによって得られるが,BCC結晶は立方体(あるいは正軸体)を切頂することによって得られる.3次元BCC結晶は切頂八面体,4次元BCC結晶は正24胞体となる.

 BCC結晶では,頂点周囲で会合する多面体数や次数はnのパリティに従う.たとえば,次数mはnが奇数のときm=3(n−1)/2,nが偶数のときm=n^2/2となる.力学的安定性はミンコフスキー結晶におよばない.

 また,ミンコフスキー結晶では切稜面とn−2次元面の切断面を貼りあわせ,その間に切頂面とファセット間が挿入された空間充填図形となるが,BCC結晶では,切頂面同士を貼りあわせ,その間にファセット間が挿入されることになる.

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【3】3次元の特殊性

  2^3+2・3=2(2^3−1)=14

より,3次元の切頂八面体(14面体)は,すべての次元を通じて唯一,BCC結晶かつミンコフスキー結晶という性質をもつ多面体である.この事実が5種類ある3次元平行多面体の元素数が1であることと密接に関係してくるのである.

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【4】図

 ミンコフスキー結晶{3,3,3,3,3}(1,1,1,1,1,1)

 BCC結晶{3,3,3,3,4}(0,0,1,0,0,0)

 非結晶{3,3,3,3,4}(0,1,0,1,1,0)

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