■準結晶・徒然草(その5)
1984年11月にアメリカのシェヒトマンらによって発見された5回対称性を示す新しい物質の論文が掲載された.5回対称性を示す結晶はあり得ないと思われていたこともあって,発見から論文受理までに相当の時間を要したといわれている.この新しい構造の発見はそれまでの概念を変えなければ受け入れられない衝撃的なものであったのである.
発見当初,この新しい物質は怪人20面相をもじって「怪相20面体」と紹介された.正20面体が5回対称性をとることから命名されたしゃれたネーミングである.いうまでもなく怪相20面体は今日「準結晶」と呼ばれている物質である.
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シェヒトマンの発見はあまりにも衝撃的で、研究者間の激しい論争に火をつけた。多くの科学者はシェヒトマンを激しく批判した。二回もノーベル化学賞を受賞して史上最高の化学者といわれたポーリングは最も過激な批判者だったといわれる。しかし、その研究結果は発表された1984年以降、追試によってその正しさが確認された。1987年、東北大学の蔡安邦のチームは正五角形面を持つ合金の結晶を見つけている。シェヒトマンは2011年にノーベル化学賞を受賞することになった。
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シェヒトマンが発見した結晶は人工的なものであったが、そのような結晶が自然界にも存在しうるのだろうか?
スタインハートのチームは2009年、自然界の準結晶を発見した。正20面体石と名付けられたこの物質は5回対称性を持つアルミ、銅、鉄の合金として存在する。ロシアのカムチャカ半島コリャーク山で見つかったこの小さな粒子は地球外を起源とし、45億年前に小惑星によって地球にもたらされたと推測されている。
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準結晶ではないが、隕石つながりで、ロンスデール石も紹介しておきたい
ロンスデール石は1967年,アリゾナにある隕石の落下地点で初めて発見された希少な結晶である.同年に人工的に合成することに成功したこの結晶の名前は英国の結晶学者ロンスデールに因んでいる.
ロンスデール格子を真横からみるとダイヤモンドと変わりがないが,真上からみると蜂の巣状に見える.ロンスデール格子はグラファイトに似たところがあり,隕石孔のみから発見されることより衝突下の高温高圧によりグラファイト構造を保ちつつ変性したものがロンスデール石であると考えられる.
ダイヤモンドではすべての六角形がイス型立体配置であったのに対し,ロンスデール石では舟型立体配置が存在する.舟型立体配置はイス型立体配置に較べ構造不安定で,ロンスデール石はダイヤモンドよりも柔らかい.
氷の結晶で酸素原子のみを繋ぐと,ロンスデール石とほぼ同じ形をした結晶になっている.それに対して,ダイヤモンド型の氷の結晶も存在するが,それは高圧環境下で生成された氷である.
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