■結晶と相転移(その40)

【1】1次元のマーデルング定数

 話を簡単にするため1次元の結晶について考えてみよう.1次元なんてつまらないと感じるかもしれないが,何事もまずは簡単な例からというのは科学的な態度であり,大きな御利益が得られる場合も少なくない.

 間隔Rで正負イオンが交互に1直線上に並んだ

  ・・・−Na+−Cl-−Na+−Cl-−Na+−Cl-−・・・

において,1つのNa+イオンに注目すると,第1近接は両隣にある2個のCl-イオンであり,第2近接はさらにその隣にある2個のNa+イオンである.1次元であっても原理的には同じであるから,以下同様に,

  U=-e^2/R*2[1-1/2+1/3-1/4+・・・]

が得られる.因子2は等距離のところに左右1個ずつ2つのイオンがあることを考慮している.

 ここで,括弧の中の和

  1/1−1/2+1/3−1/4+・・・

は調和級数

  1/1+1/2+1/3+1/4+・・・

の交代級数であり,メルカトールの定数とかグレゴリーの定数と呼ばれている定数である.

 この値は対数関数のマクローリン展開

  log(1+x)=x−1/2x2 +1/3x3 −1/4x4 +・・・

においてx=1とおくとlog2に収束するから,最終的には

  U=-e^2/R*2log2

より,1次元の鎖に対するマーデルング定数は

  α=2log2=1.386

である.

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 ところで,交代級数では,元の級数の項の順番を変えると収束値が変動してしまう.たとえば,負項を正項に変えて,あとでその2倍を引くと,

 1/1−1/2+1/3−1/4+・・・

=(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)−2(1/2+1/4+1/6+1/8+・・・)

=(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)−(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)

=0

 また,この交代級数は奇数の逆数と偶数の逆数に−1をかけたものからできているが,足し合わせる順序が違う級数,たとえば,負の項が2つの連続する正の項をはさんで現れる級数:

  {1/1+1/3−1/2}+{1/5+1/7−1/4}+・・・

では3/2log2に収束する.また,正の項に引き続いて負の項が2つの連続する級数:

  {1/1−1/2−1/4}+{1/3−1/6−1/8}+・・・

は1/2log2に収束することがわかっている.

(証明)

  {1/1−1/2−1/4}+{1/3−1/6−1/8}+・・・

  =1/2log2を示す.

 与えられた級数は

 Σ{1/(2n−1)−1/2(2n−1)−1/(2(2n−1)+2)}

=Σ{1/(4n−2)−1/4n}

 一方,1/1−1/2+1/3−1/4+・・・=log2より

1/2log2=1/2−1/4+1/6−1/8+・・・

       =(1/2−1/4)+(1/6−1/8)+・・・

       =Σ{1/(4n−2)−1/4n}

 これらは無限のパラドックスの一つの例である.有限級数ならば,足し算の順序に入れ替えは自由にできるが,無限級数となると話はまったく違ってくる.正の項と負の項がいずれも絶対収束するとき,級数の和の順番は勝手に変えてもよいのであるが,そうでない場合は,足す順序によっては級数の和が異なってくる.実は,条件収束級数の場合,級数の項の順番を適当に変えるとどんな値にでも収束させることができることが知られている.

定理(1):絶対収束級数は項の順序をどのように変えても絶対収束し,和も変わらない.(ディリクレ)

定理(2):条件収束級数は項の順序を適当に変えれば,指定された値(±∞でもよい)を和にもつようにも,振動するようにもできる.(リーマン)

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