■結晶と相転移(その35)

 1次元の場合,すなわち,

  U=-e^2/R*2[1-1/2+1/3-1/4+・・・]=-e^2/R*2log2

とは違って,2次元・3次元では解析的な解は得られそうにないが,数値的には求められるであろうと気楽に考えていた.ところが,この無限級数の場合,距離の近いものから足し合わせるという(馬鹿正直な)正攻法では振動が激しく,一向に収束しないのである.

===================================

【1】絶対収束・条件収束

 Σanの絶対値級数Σ|an|が収束するとき,Σanは絶対収束するという.また,Σanは収束するが,Σ|an|は収束しない級数は,条件収束するという.

 マーデルングの交代級数では,1種のディリクレ級数→【補】

  Σ±an/n^s  (s=1/2)

の計算をしていることになる.数学に堪能な方であれば,この級数が絶対収束するかどうか調べるべきところであるが,小生,巧い判定法を思いつかない.しかし,結晶の周期的構造の物理的意味を考えると絶対収束しないことは明らかであろう.

 さて,級数

  1/1−1/2+1/3−1/4+・・・

は調和級数

  1/1+1/2+1/3+1/4+・・・→ +∞

の交代級数である.この値は対数関数のマクローリン展開

  log(1+x)=x−1/2x2 +1/3x3 −1/4x4 +・・・

においてx=1とおくとlog2に収束することがわかる.この値はメルカトールの定数とかグレゴリーの定数と呼ばれている定数である.

 ところで,交代級数では,元の級数の項の順番を変えると収束値が変動してしまう.たとえば,負項を正項に変えて,あとでその2倍を引くと,

 1/1−1/2+1/3−1/4+・・・

=(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)−2(1/2+1/4+1/6+1/8+・・・)

=(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)−(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)

=0

 また,この交代級数は奇数の逆数と偶数の逆数に−1をかけたものからできているが,足し合わせる順序が違う級数,たとえば,負の項が2つの連続する正の項をはさんで現れる級数:

  {1/1+1/3−1/2}+{1/5+1/7−1/4}+・・・

では3/2log2に収束する.また,正の項に引き続いて負の項が2つの連続する級数:

  {1/1−1/2−1/4}+{1/3−1/6−1/8}+・・・

は1/2log2に収束することがわかっている.

(証明)

  {1/1−1/2−1/4}+{1/3−1/6−1/8}+・・・

  =1/2log2を示す.

 与えられた級数は

 Σ{1/(2n−1)−1/2(2n−1)−1/(2(2n−1)+2)}

=Σ{1/(4n−2)−1/4n}

 一方,1/1−1/2+1/3−1/4+・・・=log2より

1/2log2=1/2−1/4+1/6−1/8+・・・

       =(1/2−1/4)+(1/6−1/8)+・・・

       =Σ{1/(4n−2)−1/4n}

 これらは無限のパラドックスの一つの例である.有限級数ならば,足し算の順序に入れ替えは自由にできるが,無限級数となると話はまったく違ってくる.正の項と負の項がいずれも絶対収束するとき,級数の和の順番は勝手に変えてもよいのであるが,そうでない場合は,足す順序によっては級数の和が異なってくる.実は,条件収束級数の場合,級数の項の順番を適当に変えるとどんな値にでも収束させることができることが知られている.

定理(1):絶対収束級数は項の順序をどのように変えても絶対収束し,和も変わらない.(ディリクレ)

定理(2):条件収束級数は項の順序を適当に変えれば,指定された値(±∞でもよい)を和にもつようにも,振動するようにもできる.(リーマン)

===================================