■黄鉄鉱結晶群(その4)

 愚者(愚か者)の金とは黄鉄鉱(パイライト)のことである.黄鉄鉱の結晶は正四面体以外のすべての正多面体の形をとる.立方体が双晶状に並んだものはよくみられるが,正12面体状の単結晶も発見されている.

 正4面体,立方体,正8面体の3つが存在することは鉱物の結晶から古くから知られていて,平凡な幾何学的事実といってもよいのであるが,正12面体と正20面体は結晶形にはなり得ず,かなり遅れて発見されたようである.正12面体は当時シシリー島で多く産出された黄鉄鉱の結晶とよく似ていて,ピタゴラスがそのあたりに住んでいたことから見つけだされたという数学史家ヒースの説がある.

 愚者の金は,輝くものすべてが金とは限らない,転じてから騒ぎだけで終わってしまうことの暗喩なのだと思われる.それに対して,賢者の石とは何を指すのか,あるいは,どういう意味なのだろうか.

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【Q&A】

[Q]賢者の石は具体的な物質か,それとも抽象的なものの呼称なのか?

[A]賢者の石は錬金術の用語である.卑金属を金などの貴金属に変えるための触媒であって,水銀と硫黄の比率(硫化水銀)により賢者の石ができると考えられていたようである.

[Q]賢者の石と愚者の金は,たとえば,やせたソクラテスと太った豚のように一対の用語なのか?

[A]ヨーロッパにイスラム科学の錬金術が輸入され,賢者の石の探求熱が高まったのは12世紀であるから,どうやら対比的に用いられるわけではないようだ.

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