■円錐面の輪切り(その29)
パップスの定理は直線の固有の性質というものではなく,円でも同様に成り立つことをパスカルが発見する.
パスカルの定理:円に内接する六角形の対辺の交点は共線である.
その後,楕円でも双曲線でも広く成り立つことがわかった.すなわち,パスカルの定理の主張されている円を底面にもつ円錘を考えて,その円錐を斜めに切ることで一般の円錐曲線に対してもパスカルの定理が成り立つのである.
最初に発見されたときには直線固有の性質を使って証明されているが,徐々にそのような強い性質は不要であり,本質はもっと他の図形も備えている別の性質にある・・・このように具体的な法則を見つけて,それが一般的な対象についても成り立つというような探求を極限まで進めていくのが代数幾何の思想である.
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【1】パップスの定理
「直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.」
すなわち,2つの直線上にそれぞれ3点ずつとってクモの糸のように結ぶと,新しくできる交点3つは共線をなして並ぶ,2直線上にすべての頂点がのっている6角形の反対側の位置にある辺同士の交点は同一直線上にあるというのが射影幾何学におけるパップスの定理である.
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【2】パスカルの円錐曲線定理(1640年)
円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.
円錐曲線には種々の形があります.直線は無限半径をもつ円ですが,2本の直線からなる退化した円錐曲線(ax+by+c)(dx+ey+f)=0を考えればパップスの定理にたどりつきます.パスカルの定理は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つというわけで,どのような円錐曲線でもこの定理が成り立つことが主張されているのです.
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パスカルは,直線を直線に移す円板の非ユークリッド幾何学的な変換
x’=(ax+by+c)/(ux+vy+w)
y’=(dx+ey+f)/(ux+vy+w)
を行っても定理で述べられた性質は保たれることを見抜いて簡明な証明を与えています.
たとえば,
x’=2x/(1+y)
y’=(1−y)/(1+y)
と変数変換すると単位円x’^2+y’^2=1は放物線y=x^2になり
x’=2/(x+y)
y’=(−x+y)/(x+y)
と変数変換すると単位円x’^2+y’^2=1は双曲線xy=1になります.この変換によって直線の交差する角度や線分の長さは保たれませんが,これが射影幾何学の視点であって,射影幾何学とは長さや角の大きさに無関係に,例えば,いくつかの点がある直線上にあるといった関係,射影によって不変な図形の性質を研究する学問です.
この変換によって,射影平面上では円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となります.したがって,パスカルの円錐曲線定理は円に対する証明を示せば直ちに得られることになります.実際,問題が簡単な形になったことで,パスカルは古典幾何学的に円に対する証明を与えていますが,それで放物線に対しては直接証明することなしに自動的に定理が導かれたというわけです.
パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの定理です.また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.
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