■三角形の初等幾何学(その31)
三角形,四角形についての等式・不等式を紹介したい.
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任意の三角形に対して
tanα+tanβ+tanγ=tanαtanβtanγ
が成り立つ.
この式は
γ=π−(α+β)
として,tanの加法公式を用いることにより容易に証明される.役に立つかどうかは別として,私にとってこの公式は対称性のある美しい公式と感じられる.もちろん,美しく感じるかどうかは主観的であり,強制すべきものではないが,きっと多くの人の美意識にも訴えるに違いない(希望).
同様に,任意の三角形に対して
sinα+sinβ+sinγ=4cosα/2cosβ/2cosγ/2
sin2α+sin2β+sin2γ=4sinαsinβsinγ
sin3α+sin3β+sin3γ=−4cos3α/2cos3β/2cos3γ/2
cosα+cosβ+cosγ=1+4sinα/2sinβ/2sinγ/2
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等式の世界も面白いが,不等式の世界だって奥深いものがある.
鋭角三角形ならば,算術平均≧幾何平均より
tanα+tanβ+tanγ≧33√tanαtanβtanγ
前項より,
tanαtanβtanγ≧33√tanαtanβtanγ
したがって,
tanαtanβtanγ≧√27=3√3
であるから,
tanα+tanβ+tanγ≧3√3 (等号は正三角形のとき)
を容易に証明することができる.
少し気分を変えて,次の不等式はどうだろうか?
(問題)
sinαsinβsinγ≦3√3/8
(証明)
2sinβsinγ=cos(β−γ)−cos(β+γ)
=cos(β−γ)+cosα
sinαsinβsinγ
=1/2sinα(cos(β−γ)+cosα)
≦1/2sinα(1+cosα)
これより極大値を計算すると,3√3/8が得られる.なお,この不等式は三角形の外接円,内接円および面積をR,r,△とすれば,
abc=4R△,(a+b+c)r=2△
また,正弦法則
a/sinα=b/sinβ=c/sinγ=2R
より,
abc≦3√3R^3
と同値である.
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(問題)△ABC内の1点をP,面積を△とすると,
AP+BP+CP≧2√((√3)△)
等号は△ABCが正三角形で,Pが重心のときに限る.
(証明)
n角形の周の長さが与えられているとき,面積の最大のものは正n角形であるから,
L^2≧4nStan(π/n)
等号は正n角形に対してのみ成り立つ.
そこで,Pの辺BC,CA,ABに関する対称点をA’,B’,C’とし,六角形AC’BA’CB’に不等式
L^2≧4nStan(π/n)
を使えばよい.ここで,L=2(AP+BP+CP),S=2△
なお,△≧√(27)r^2が成り立つので,
AP+BP+CP≧6r
これは,エルデシュの定理の特別な場合になっていて,シュライバーの定理とも呼ばれる.
一方,四角形については,プトレマイオス(トレミー)の定理「円に内接する四角形の対角線の積は,対辺の積の和に等しい」がある.
AC・BD=AB・CD+BC・DA
この定理において,もし四角形が長方形ならば
AC^2=AB^2+BC^2
となり,ピタゴラスの定理に帰着する.
また,4点が同一円周上にないとき,不等式
AC・BD<AB・CD+BC・DA
が成り立つ.
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