■直観幾何学研究会2024(その48)

 その後も,5次方程式の根の公式に対しては,オイラーやラグランジュなど多くの数学者が挑戦したのですが,だれ一人として成功しませんでした.

 

 ラグランジュは4次方程式までと同様の方法を5次方程式に試みて失敗したのですが,一般のn次方程式のn個の根x1,x2,・・・,xnと1のn乗根ζの式:

  Σζ^(k-1)xk

を根とする方程式の性質を詳しく考察し,方程式論に置換群の概念を導入した意義は重要です.ラグランジュの基本的なアイディアは,これまで研究されてきた方程式の根の公式を対称性の視点から見つめ直すことにあったのです.

 

 さらに,ルフィーニは置換群を分類し,5次の置換群の位数を決定しました.これらが布石となって,次第に完全な証明に近づいていくのですが,いよいよそれを証明する人が登場します.

 

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【7】不可能の証明(アーベル)

 

 ノルウェーの数学者,アーベルは5次の一般代数方程式がベキ根によっては解けないことを初めて証明したのです.5次がダメなら5次以上もダメですから,結局,5次以上の方程式には,係数の間の四則と累乗根を使って表す根の公式はないことになります.

 

 その際,アーベルは,「ニュートンの恒等式」を援用して方程式論を形成したことになるのですが,ここでは基本対称式とベキ和を結びつけているニュートンの恒等式について簡単に述べておきたいと思います.

 

 一般のn次方程式:

 f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0

の根と係数の関係は,

  α1+・・・+αn=−a1/a0

  α1α2+・・・+αn-1αn=a2/a0

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  α1α2α3・・・αn=(−1)^nan/a0

(ジラール)ですが,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができます.たとえば,2変数の場合,

  α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2

  α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2

  α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2

など.

 

 そこで,n変数対称式:

  pj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j

を基本対称式:

  σ1=α1+・・・+αn

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn

を用いて表してみることにしましょう.

 

 f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n

とおくと,

 f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k

      =Σ(-1)^kp(k+1)t^k

 

 ゆえに,

 f'(t)=f(t)Σ(-1)^kp(k+1)t^k

となり,

 σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)

=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(p1−p2t+p3t^2−・・・)

 

 両辺の係数を比較することによって,順次

  p1=σ1

  p2=σ1p1−2σ2

  p3=σ1p2−σ2p1+3σ3

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  p(k+1)=σ1pk−σ2p(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σkp1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)

が得られます(ニュートンの恒等式).

 

 ニュートンの恒等式から

  『α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される』

という結果が導き出されます.不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのです.

 

 逆に,n次方程式:

  f(x)=x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=Π(x−αi)=0

が与えられたとき,累乗和

  p1=α1+・・・+αn

  p2=α1^2+α2^2+・・・+αn^2

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  pn=α1^n+α2^n+・・・+αn^n

を根とする方程式の係数を導出することができるのですが,もし係数a1,・・・,anがすべて有理数(整数)なら,求める方程式の係数もまたみな有理数(整数)となることになります.

 

 なお,ここでは形式的ベキ級数の等式としてニュートンの恒等式を導き出したのですが,この漸化式は別の方法でも求めることができます.「数学の小さな旅」(羽鳥裕久,近代科学社)などをご参照願います.  

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