■直観幾何学研究会2024(その46)

 ガウスが1799年に証明した代数学の基本定理によって、n次方程式はnがどんな値のときでも、複素数の範囲で根の存在は保証されていますが、ここでは、根の公式(根を係数で表す式)の存在について触れることにします。

 2次方程式は紀元前二千年頃のバビロニアで、3次方程式、4次方程式は16世紀になって(1515年〜1540年ころ)それぞれファンタナ(タルタリアというのはどもる人という意味で彼のニックネームだった)、フェラーリによって肯定的に解かれ、根の公式が求められています。フェラーリは次数4の方程式は2次方程式と3次方程式に帰着させることができ、したがって平方根と立方根によって解けることを発見しました。

 そこで、次の問題は5次方程式:ax5 +bx4 +cx3 +dx2 +ex+f=0の代数的解法、すなわち四則演算+,−,×,÷と根号√, 3√, 4√,・・・によって解を求めることでした。いまからほとんど4世紀も昔の問題です。5次方程式の根の公式に対してはオイラーやラグランジュなど多くの数学者が挑戦したのですが、だれ一人として成功しませんでした。ラグランジュは4次方程式と同様の方法を5次方程式に試みて失敗したのですが、じつはこれには正当な理由があり、そもそも不可能な問題であったのです。

 一般に、n次方程式:

an x^n +an-1 x^n-1 +・・・+ a1 x+a0 =0

に対してx’=x+an-1 /nan と変換するとxn-1 の項が0である方程式に還元できます。ではもっと低次の項の係数を0にできないか?と考えて、チルンハウスとその弟子たちは、一般の5次方程式をx5 +ax+b=0まで還元しました(チルンハウス変換)。ここで、a=0ならば−bの5乗根としてxは求まるのですが、しかし、さらにa=0にしようとすると、6次方程式を解く必要が生じて、問題がかえって難しくなってしまいます。

 結局、19世紀になってから、5次以上の一般代数方程式は代数的に(四則と累乗根によって)解けないことが、二人の若い数学者、アーベルとガロアによって否定的に解かれ、根の公式は存在しないことが証明されています。肺結核に侵され不幸にして夭折した天才アーベル、そして当時の数学界に受け入れられなかった悲劇の天才ガロアはわずか20才の1832年に決闘にたおれたことはあまりにも有名な悲話になっています。

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