■直観幾何学研究会2024(その19)

ふいご予想,折り曲げ可能多面体が(面の形を変えずに)変形しても体積は変わらないことが証明されています(1997年,コネリー,ワルツ,サビトフ).つまり形状の変わる多面体では体積は変化しないのでふいごは風を送れない,ふいごとして使えないという定理です.2次元ではハトメのついた長方形を平行四辺形に変形させると面積は小さくなりますから,この定理は明らかに3次元空間の特別な性質といえるでしょう.

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【1】任意の多面体の体積

 三角形は3辺の長さa,b,cが与えられれば一意に決まりますから,当然面積も決まり,面積はa,b,cで表されるというのがヘロンの公式ですが,残念なことに四角形以上ではこのような公式はありえません.たとえば,すべての辺の長さが1の四角形の面積は0〜1の任意の値をとることができます.

 四面体もの場合は6辺の長さを与えると(それが存在するなら)決まりますから,体積を与える公式もあり,オイラーによって与えられています.面の形が三角形でないならこの種の公式はあり得ません.

 そこで,すべての面を三角形であるとして,辺の長さによる体積公式はあるでしょうか? このような公式が存在することが証明されています(それらは公式というよりはある代数方程式の根として得られます).平面三角形の面積,四面体の体積ではΔ^2を含む多項式が現れましたが,さらに複雑な立体にはますます高次の累乗が必要になり,たとえば,三角八面体の体積の公式にはΔ^16が含まれています.これ以上面の数が増えると次数は急速に大きくなります.

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【2】鍛冶屋のふいご

 コネリーは折り曲げ可能多面体の体積はその折り曲げ過程で変化しないという予想を「鍛冶屋のふいご予想」と名付けました.ふいごから風はでないというこの仮説は1977年から1978年にかけて何人かの数学者によって定式化されたのですが,ほぼ20年の間,証明も反証も成功しませんでした.

 そして,1997年,コネリー,ワルツ,サビトフらによってヘロンの公式の多面体の体積への拡張により証明されています.しかし,これまでのところ高次元の折り曲げ可能多面体に対するふいご予想は証明されていません.

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 複数の棒を互いに結合してできる連接棒を「リンク装置」と呼びます.連接棒の一点を直線や曲線に沿って動かすとき,複雑な変化のある曲線を描くことができます.たとえば,ジェームズ・ワットのリンケージは蒸気エンジンのピストンロッドなどに実用化されています.また,ポースリエの反転器は円運動を直線運動に,直線運動を円運動に変換する機構で,リンク装置の用途は多方面にわたっています. 【弾性曲線】

 ピアノ線を曲げたときにできる形(弾性曲線)について考えてみることにしましょう.

 弾性曲線の問題では,弾力のある素材からできていて,ひものように容易に曲がったり,ゴムひものように伸び縮みするわけでもないわけですから,数学的には曲線の長さ:

  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx

を固定して,弾性エネルギー:

  E[y]=∫(y')^2/(1+(y')^2)^5/2dx

を最小にするy(x)を求めることになります.

 その際,弧長の制約条件や被積分関数の分母の(y')^2を無視して大ざっぱに計算すると,この解は3次曲線で近似されるわけですが,きちんと計算すれば,解は初等関数では表されず,楕円関数になります.

 表面積:

  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx

を固定して,y=f(x)をx軸を軸として回転させたときにできる回転体の容積:

  V[y]=π∫y^2dx

を最小にする曲線は,ディドーの等周問題の拡張版ですから,回転体は半球.したがって,曲線は四分円となります.

 ここでは,表面積ではなく,曲線の長さ:

  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx

を固定して,回転体の容積:

  V[y]=π∫y^2dx

が最大になる曲線を考えてみます.この解は楕円関数になることが知られています.

 楕円関数はフェルマー予想の解決で注目された曲線ですが,弾性曲線や最大容積回転体の変分問題の解を数学的に表現したものになっていて,歴史的にみて,これらの変分問題は楕円関数の研究動機のひとつとなったということができましょう.

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