■フェルマーの最終定理と楕円曲線(その8)

【2】有限体上の楕円曲線

 

 今回のコラムでは,整数を法pで考えた有限体の上の3次方程式y^2=x^3+ax+bの群の位数について考察します.係数をFpにもつ3次方程式を考えて,非特異であるための必要十分条件は,p≠2,かつ,Fpの元として(mod pで)

   2^2a^3+3^3b^2≠0   です.

 

 一般論に進む前に,具体例を掲げておきましょう.有限体F5上の非特異3次曲線

  y^2=x^3+x+1=f(x)

について,

  f(0)=1(平方剰余) → y=±1

  f(1)=3(平方非剰余)

  f(2)=11=1(平方剰余) → y=±1

  f(3)=31=1(平方剰余) → y=±1

  f(4)=69=4(平方剰余) → y=±2

ですから,無限遠点を含めて9つの点が見つかります.可換群の構造が入るのは,有限体Fpにおいても同様で,この場合,位数9の可換群となります.

 

 一般のFpについて,Fp={0,1,・・・,p−1}を方程式:y^2=f(x)に代入してみましょう.すると

  (1)f(x)=0なら1つだけの解y=0がある.

  (2)f(x)≠0ならf(x)のとり得る0でない値の半分に対して,yとして2つの解がある.したがって,

  C:y^2=x^3+ax+b=f(x)

の有限体Fpにおける群の位数(元の個数)#C(Fp)は,f(x)の値が平方と非平方に均等に分布していれば,およそp+1個の点が期待できます.

 

 よって,解の個数は,

  #C(Fp)=p+1+(誤差項)

の形になることがわかります.誤差項Mpはpに比べて小さく,

  |Mp|≦2√p

  −2√p≦#C(Fp)−p−1≦2√p

を満たすことが証明されています(ハッセの定理,1933年).ハッセの不等式は,有限体上の曲線に対するリーマン予想とも呼ばれるものです.

 

 佐藤予想とは,楕円曲線Cの位数の分布に関するもので,Cが虚数乗法をもたないとき,

  cosθp=(#C(Fp)−p−1)/2√p=Mp/2√p

の偏角θpが,任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,[a,b]となる素数密度:

  #{p≦x;a<θp<b}/π(x) 〜 2/π∫(a,b)sin^2θdθ

すなわち,その角分布はsin^2θに比例するであろうというものです.

 

 佐藤予想には,多くの言い換えがあって, (1)x^2+Mpx+p=0

の解を

  √p(cosθ±isinθ)

とするとき,その角分布はsin^2θに比例する

(2)Mp/2√pが√(1−x^2)に比例する

(3)ハミルトンの4元数環(フルヴィッツの整数):(a+bi+cj+dk)/2の半径pの格子点3次元球面:a^2+b^2+c^2+d^2=4pの一様分布の実軸方向への射影である

といっても同じことです.

 

 なお,佐藤予想とは一見無関係に見えますが,Mpが−2√pから+2√pまでの区間をまんべんなく広がって分布していることに則って,巨大な整数の素因数分解に楕円曲線を応用する方法がレンストラによって発見され,最も強力な素因数分解法になっています.  

 現在,大きな素数を素因数分解するのに有用なアルゴリズムとして「楕円曲線法」や「平方ふるい法」とが知られています.楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,数論研究に非常に役立っています.また,暗号理論も楕円曲線の重要な応用分野になっています.

 

[補]リーマン予想とは,リーマンのゼータ関数ζ(s)の実部が0と1の間にあり,零点の実部ははすべて1/2であるという仮説.リーマンのゼータ関数ζ(s)を指標χに関するディリクレのL関数L(χ,s)に置き換えたものが一般リーマン予想です.21世紀に残された3大問題として,リーマン予想,ポアンカレ予想,P=NP問題があげられています.

 

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