■可積分系とテータ関数(その23)
【2】ミルナーの反例
数学者は1次元・2次元・3次元という一般的な空間だけにとらわれません.無限次元さえ考えるのですが,1964年,ミルナーはカッツの問題に対する反例を最初に見つけました.すなわち,幾何学的には異なるけれども同じ音を出す16次元のドラムのペアを発見したのです.
「R^16のなかには形の異なる2つの偶ユニモジュラ格子E8+E8,D16+がある.この2つの格子から構成されるトーラスR^16/E8+E8,R^16/D16+は同じテータ関数をもつ(=等スペクトル)である.」
(証)16次元ダイアモンド格子D16+のテータ関数は
1/2(θ2^16+θ3^16+θ4^16)
E8+E8のテータ関数は
{1/2(θ2^8+θ3^8+θ4^8)}^2
ここで,ヤコビの関係式
D4+=I4 → θ3^4=1/2(θ2^4+θ3^4+θ4^4)
θ3^4=θ2^4+θ4^4
より,θ3を消去すれば両者は(定数倍を除いて)一致することが確認できる.
ところが,偶ユニモジュラ格子は保型性
Θ((az+b)/(cz+d))=(cz+d)^(n/2)Θ(z)
を満さなければならないため,16次元の場合,テータ関数は,
Θ(z)=1+480Σσ7(n)aq^2n=E8(z)
ただひとつに限られる(σ7(n)はnの正の約数の7乗和,E8(z)はアイゼンシュタイン級数).
したがって,トーラスR^16/E8+E8とR^16/D16+は等スペクトルである(=16次元多様体の形は必ずしも聞き取ることはできない)ことが証明されたことになる.
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