■ポーランド数学(その2)

 平面上の点で座標が両方とも整数の点を格子点といいます.

(Q)与えられた整数nに対して,平面上の円でちょうどn個の格子点を囲むものが存在するか?

という問いかけはスタインハウスが1957年に提起した問題です.

===================================

【1】シェルピンスキーによる解答

 シェルピンスキーはスタインハウスの問題に肯定的に答えています.

(A)点(√2,1/3)は平面上のすべての格子点から異なる距離にある.

(証)(a1,a2),(b1,b2)は点(√2,1/3)から等距離にある異なる格子点と仮定すると

(a1−√2)^2+(a2−1/3)^2=(b1−√2)^2+(b2−1/3)^2

a1^2+a2^2−b1^2−b2^2−2/3a2+2/3b2=2(a1−b1)√2

 √2が無理数であることより

  a1−b1=0かつa2^2−b2^2−2/3(a2−b2)=0

したがって,

  a2+b2−2/3=0

でなければならない.しかし,a2,b2は整数であるから明らかに矛盾する.よって,点(√2,1/3)から格子点までの距離はすべて異なることがわかる.

===================================

【2】有理格子への拡張

 √2は無理数,1/3は有理数であることはわかるにしても,シェルピンスキーはどうやって点(√2,1/3)を見つけたのだろうか?

 もし点(√2,1/3)ではなく,(√2,1)ならば,

(a1−√2)^2+(a2−1)^2=(b1−√2)^2+(b2−1)^2

a1^2+a2^2−b1^2−b2^2−2a2+2b2=2(a1−b1)√2

 √2が無理数であることより

  a1−b1=0かつa2^2−b2^2−2(a2−b2)=0

したがって,

  a2+b2−2=0

でなければならない.→m,nを整数とすると(m,n),(m,2−n)は(√2,1)より等距離にある格子点である.このような格子点は無数に存在する.

 (√2,√3)ならば,

(a1−√2)^2+(a2−√3)^2=(b1−√2)^2+(b2−√3)^2

a1^2+a2^2−b1^2−b2^2=2(a1−b1)√2+2(a2−b2)√3

 √2,√3が無理数であることより

  a1−b1=0かつa2−b2=0

したがって,(a1,a2),(b1,b2)は同じ点でなければならない.→このような格子点は存在しない.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 次に,格子点Z^nを有理格子Q^nで置き換えてみることにしよう.点(√2,√3)は平面上のすべての格子点から異なる距離にあることがわかったが,実は平面上のすべての有理点からも異なる距離にある.点(√2,1/3)は平面上のすべての格子点から異なる距離にあるが,有理点(p,q),(p,2/3−q)からは等距離にある.

 1次元のすべての有理点から異なる距離をもつ点の集合は無理数と一致します.そこで,n次元においてもQ^nのすべての有理点から異なる距離にある点を無理点と呼ぶことにすると,無理点(x1,x2,・・・,xn)の集合は,有理超平面

  a1x1+a2x2+・・・+anxn+an+1=0

  aiがすべて有理数(すべて整数としても同値),Σai^2>0

上にない点の集合である.言い換えると

  a1x1+a2x2+・・・+anxn+an+1=0

がすべてのai=0を意味するとき,点(x1,x2,・・・,xn)は無理点である.

(例1) 点(√2,1)はx2−1=0上にあるから有理点である.

(例2) 点(√2,1/3)は3x2−1=0上にあるから有理点である.

(例3) 点(log2/log7,log3/log7,log5/log7)はR^3の無理点である.

(証)有理点であるならば

  a1x1+a2x2+a3x3+a4=0

が存在する.したがって,

  a1log2+a2log3+a3log5+a4log7=0

  2^a1・3^a2・5^a3・7^a4=1

しかし,これは不可能である.

(例4) 点(e,e^2,・・・,e^n)はR^nの無理点である.

 eは超越数であり,超越数の定義により

   c0+c1e+c2e^2+・・・+cne^n=0

という整数係数をもつ方程式は存在しない.

===================================

【3】バリエーション

(Q)与えられた整数nに対して,平面上の円でちょうどn個の格子点を通る円が存在するか?

(A)yes.

 n=2(k+1)のとき,点(1/2,0)を中心とする円

  (2x−1)^2+(2y)^2=5^k

 n=2k+1のとき,点(1/4,0)を中心とする円

  (4x−1)^2+(4y)^2=5^2k

がちょうどn個の格子点を通る円となる.

[参]シェーンベルグ「数学点描」近代科学社

   前原潤「円と球面の幾何学」朝倉書店

===================================