■四元数を用いた鏡映と回転(その22)
非可換な四元数と非可換・非結合的な八元数の数体系が存在する.
ハミルトンは非可換な四元数を発見したが,これは数の可換性を否定したことから,平行線の公理を否定したロバチェフスキーの非ユークリッド幾何学の発見と並び称される.
その後,グレーブスやケイリーによって八元数も見出されたが,
(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)
の恒等式はn=1,2,4,8に対してだけ満たされるという驚くべき結果が19世紀末,フルヴィッツにより証明されている(1898年).
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【1】三元数は存在しないことの証明(1)
(a1^2+a2^2+a3^2)(b1^2+b2^2+b3^2)=c1^2+c2^2+c3^2
において,偶数の2乗は4nの形であり,奇数の2乗は
(2k+1)^2=4k(k+1)+1=8n+1
の形であるから,3つの2乗和はそれがすべて奇数であれば,4n+1か8n+3のいずれかの形をとる.
したがって,8n+7という形の奇数は決して3つの2乗和にかけない.すなわち,3元数に対する平方和問題は破綻している.
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【2】三元数は存在しないことの証明(2)
三元数を
(x,y,z)=x+yi+zj
で表す.
x=(x,0,0),i=(0,1,0),j=(0,0,1)
i^2=−1=(−1,0,0),j^2=−1=(−1,0,0)
ここで,
ij=x+yi+zj
とかけたと仮定する.この式に左からiをかければ
zx−y+(x+yz)i+(z^2+1)j=0
が得られるが,zは実数であるので不可能.
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【3】十六元数は存在しないことの証明(フルヴィッツの定理)
もちろん,三元数は存在しないので,六元数も存在しないが,ケイリー・ディクソンの2重化法
C=R+iR
H=C+e2C (複素数の複素化)
を適用して構成される超複素数体系が,八元数
O=H+e7H (四元数の複素化)
である.
しかし,このように倍増を重ねて新しい数体系ができるのは,八元数でストップするというのがフルヴィッツの定理である.この証明では単位元をもつ数体系を仮定するとR,C,H,Oに限るということを主張する.
これはまた,平方和問題
(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)
はn=1,2,4,8の場合のみ解をもつことを意味している.
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四元数qに対して、変換f(x)=qxq^(-1)を考えてきたが、とくに|q|=1のときはq^(-1)=q~となり、
f(x)=qxq^(-1)=qxq~
となる。
四元数を用いた回転は
f(x)=axa~
kik~=-kik=-jk=-i・・・xy平面上の180度回転
n=(n1,n2,n3)=n1i+n2j+n3k,n1^2+n2^2+n3^3=1
q=cos(θ/2)+nsin(θ/2)
|q|=cos^2(θ/2)+(n1^2+n2^2+n3^2)sin^2(θ/2)=cos^2(θ/2)+sin^2(θ/2)=1
nの周りにθ回転させる操作はqxq~で与えられる。
[1]xy平面に関する回転:q=cos(θ/2)+ksin(θ/2)
[2]yz平面に関する回転:q=cos(θ/2)+isin(θ/2)
[3]xz平面に関する回転:q=cos(θ/2)+jsin(θ/2)
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オイラーの公式exp(iθ)=cosθ+isinθ
を四元数の場合に一般化することを考えます。
Φ=(θ^2+φ^2+ψ^2)^1/2とおくと
exp(iθ+jφ+kψ)=cosΦ+(iθ+jφ+kψ)/ΦsinΦ
n=1/Φ・(θ,φ,ψ)としたとき、2Φ回転を表していることが分かります。
四元数では
f(x)=qxq^(-1)=qxq~
のようにqで挟んで回転させるため2Φ回転となるのである。
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