■もう一人の巨匠(その4)
ダリのパラダイムシフトが如実に現れている作品が「記憶の固執(1931年)」と「記憶の固執の崩壊(1954年)」の対比である。
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前者は時間と空間の流動性を示唆しているのに対し、後者では前者に描かれていたものがブロック化され、物質とエネルギーは離散的な量子に分解されるというハイゼンベルグの量子物理学的な視点が採用されている。
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20世紀の入ろうとするころ、物理学は巨大な矛盾に悩まされていた。アインシュタインが問題にした矛盾とは、ニュートンの運動力学とマクスウェルの電磁気学の間に見られる不一致のことである。
ニュートンの力学では一つの物体の運動は別の物体に対する相対的な運動として測定されるが、光の速度の相対的な変化は誰にも測定できず、光源が近づいてくる場合でも、離れていく場合でも常に同じ速度である(電磁気学でも光の速度は常に一定であると説明されていることであった)。アインシュタインはその理由を知りたかったのである。
結局、光速が一定になるためには時間の流れる速さが異なったり、空間の大きさが縮んだり広がったりすることが必要であった。1916年の一般相対性理論では運動とエネルギーや質量が空間と時間をゆがめるというものであった。重力も空間と時間がエネルギーによってゆがめられたことによって生じるのである。アインシュタインの考えは驚きを迎えられることとなった。
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