■三角形の心(その66)

【1】tan1°の無理数性

京都大学の入試問題(2006年)に

[Q]tan1°は有理数か? 無理数か?

という問題が出題されているそうである.

[A]背理法で証明する,正接の加法定理

  tan(x+y)=(tanx+tany)/(1−tanx・tany)

において,tanxとtanyの両者が有理数ならばtan(x+y)も有理数である.

 tan1°が有理数と仮定すると,tan2°も有理数である.tan2°が有理数と仮定すると,tan3°も有理数である.この操作を繰り返すとtan30°も有理数となるが,実際はtan30°=1/√3(無理数)であるから矛盾する.(もちろん,tan60°も有理数となるから矛盾であるとしてもよい.)

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[Q]tan1°は代数的数か? 超越数か?

[A]論法はいささか趣きが異なるが,数学的帰納法で証明する.

tant°が整数係数の多項式ft(x),gt(x)を用いて,

  tant°=gt(tan1°)/ft(tan1°)

と表せるものとする.

  tan(t+1)°

=(tan1°+tant°)/(1−tan1°・tant°)

=(tan1°+gt(tan1°)/ft(tan1°))/(1−tan1°・gt(tan1°)/ft(tan1°))

=(tan1°ft(tan1°)+gt(tan1°))/(ft(tan1°)−tan1°gt(tan1°))

 したがって,

  ft+1(x)=ft(x)−xgt(x)

  gt+1(x)=xft(x)+gt(x)

とおくことによって

  tan(t+1)°=gt+1(tan1°)/ft+1(tan1°)

と表すことができる.

 数学的帰納法により

  tan45°=g45(tan1°)/f45(tan1°)=1

であるから,tan1°は整数係数の代数方程式

  g45(tan1°)−f45(tan1°)=0

の解となる.よって,tan1°は代数的数である.

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 tan30°でもtan60°でもいけない理由がおわかりいただけたであろうか.tan45°=1の最小多項式は1次であるから,t=1のときはf1(x)=1,g1(x)=xとすればよく,そうすれば

  ft+1(x)=ft(x)−xgt(x)

  gt+1(x)=xft(x)+gt(x)

よりf2(x)は2次,g2(x)は1次,f3(x)は2次,g3(x)は3次となる.

 したがって,

  g45(x)−f45(x)

の最小多項式は高々45次,tan1°は高々45次の代数的数である.

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x=tan1°,tan45°=1(ローメンの問題)では、正接の加法公式が用いられている.

t=tanθとおくと,

tan2θ=2t/(1−t^2)

  tan3θ=(3t−t^3)/(1−3t)

  tan4θ=(4t−t^3)/(1−6t^2+t^4)

  tan5θ=(5t−10t^3+t^5)/(1−10t^2+5t^4)

 このように多項式pn(t),qn(t)を用いて

  tannθ=qn(t)/pn(t)

と表すことができる.正接のn倍角公式は,パスカルの三角形を用いて,次のように書くことができる.

tan(n+1)α=(tanα+tannα)/(1−tanαtannα)

tannα=(nC1tanα−nC3tan^3α+nC5tan^5α−・・・)/(nC0−nC2tan^2α+nC4tan^4α−・・・)

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tan45°=1であるが,

[Q]tana°=1/2,tanb°=1/4となるa,bは有理数だろうか?

[A]aもbも無理数.

[証1]aが有理数ならある整数nに対してnaは360の倍数になる.また,naは(2+i)^nの偏角で,(2+i)^nは実数.したがって,(2+i)^nは共約複素数(2−i)^nに等しい.

 しかし,2+iと2−iは5の異なるガウス素数であり,素因数分解の一意性に反する.

[証2]bが有理数ならある整数nに対してnaは360の倍数になる.また,naは(4+i)^nの偏角で,(4+i)^nは実数.したがって,(4+i)^nは共約複素数(4−i)^nに等しい.

 しかし,4+iと4−iは17の異なるガウス素数であり,素因数分解の一意性に反する.

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