■アルベロスの円列(その4)

私がアルベロスを知ったのはマーチン・ガードナーの本であった.そこにはアルベロスのことを驚くほど多くの幾何学的性質をもつ集合図形として紹介されていた.

和算においてもアルベロスに関する問題が扱われているのだが, 

  奥村博,渡辺雅之「アルベロス,3つの半円が作る幾何宇宙」岩波書店

当該書籍はアルベロスのみを題材としてそれらを集大成したおそらく世界初のユニークな出版物であろう.

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【2】アポロニウスのガスケット

 アルキメデスのアルベロス円列は2つずつ接する3つの円に対し,3つの円に接する円を次々に描き加えていくものである.フォードの円列は最初の3つの円のうち1つが直線(半径∞の円)に変わったものである.

 フォードの円列と直線との接点は常に有理数であり,区間[0,1]のすべての有理数はフォードの円列の接点として得られる.たとえば,x^2+(y−1/2)^2=(1/2)^2と(x−1)^2+(y−1/2)^2=(1/2)^2によって表されるような2円から始めると,ファレイ数列

[0/1,1/1]

→[0/1,1/2,1/1](2位のファレイ数列)

→[0/1,1/3,1/2,2/3,1/1](3位のファレイ数列)

→[0/1,1/4,1/3,2/5,1/2,3/5,2/3,3/4,1/1](5位のファレイ数列)

→[0/1,1/5,1/4,2/7,1/3,3/8,2/5,3/7,1/2,4/7,3/5,5/8,2/3,5/7,3/4,4/5,1/1](8位のファレイ数列)

が得られる.(n位のファレイ数列とは分子と分母がnを超えない既約な正の有理数全体を大きさの順に並べたものである.)

 ファレイ数列では相隣り合う2項[m1/n1,m2/n2]の分母と分子からなる行列式の値m1n2−m2n1は±1である.また,フォードの円列では(m1/n1,1/2n1^2)を中心とする半径1/2n1^2の円と(m2/n2,1/2n2^2)を中心とする半径1/2n2^2の円が接する.

 一般に3つの円に接する4つ目の円を描く問題が「アポロニウスの問題」であり,この操作を無限に繰り返してできる図形をアポロニウスのガスケットという.フォードの円列,アルキメデスのアルベロス円列はアポロニウスのガスケットの特別な場合になっている.

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