■中央二項係数とカタラン数(その9)

単純ランダムウォークの再帰性,すなわち,いつかは原点に戻る確率(再帰確率)について考察することにします.

 

 非対称単純ランダムウォーク(p≠q)では,p,qの大小によって右か左にずれる傾向があるはずで,非再帰的,すなわちt→∞のとき無限の彼方へいってしまうことが予想されます(実際そうなるのであるが,その証明は後述する).そこで,p=q=1/2,すなわち対称単純ランダムウォークの場合を考えることにします.

 

 原点に戻るのはtが偶数の時に限られるので,2nステップのとき,左右に同じ回数nずつ移動する確率は

  u2n=2nCnp^nq^n

で与えられます.特に,対称(p=q=1/2)のときは,

  u2n=2nCn/2^(2n)

 

 また,粒子が時刻2nではじめて原点に復帰する確率は

  f2n=u2(n-1)/2n

で与えられます.この確率はカタラン数

  Cn=2nCn/(n+1)=1,2,5,14,42,・・・

を用いて,

  f2n=C(n-1)/2^(2(n-1))

と表されます.(カタラン数のはじめの4項1,2,5,14は初項1から始まって前項を3倍して1を引いたものに一致しますが,5項目以降は異なっています.)

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 再帰性を判定するのには,たとえば,粒子が出発した点にいる確率がt=∞においても有限の値を示すときは再帰的,また,これは出発した点にいる確率をt=0からt=∞まで積算した量が無限大に発散するときは再帰的と定義できます.前者は強い意味の,後者は弱い意味の粒子の局在を表しています.すなわち,単純ランダムウォークが再帰的であるための必要十分条件は,

  Σu2n=∞

が成立することと考えられ,Σu2n<∞のときは再帰しないとします.

 

 ここで,ウォリスの公式によって,

  u2n=2nCn/2^(2n) 〜 (πn)^(-1/2)

が示されます.また,ゼータ関数

  ζ(k)=Σ1/n^k

はk≦1のとき発散し,k>1のとき収束しますから,1次元の対称単純ランダムウォークは再帰的であることがわかります.スターリングの公式を使っても同じ結果が得られます.→【補】

 

 なお,1次元非対称単純ランダムウォークに対しては,まったく同じ方法で,  u2n=2nCnp^nq^n=2nCn/2^(2n)(4pq)^n

  Σu2n=(1−4pq)^(-1/2)=1/|p−q|<∞

すなわち,非再帰的という結果が得られます.

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