■オイラーの素数生成公式とラビノヴィッチの定理(その11)

【1】ベイカー・スタークの定理

どういう負の数−dを使った整数環Z(√−d)で,素因数分解は一意となるのでしょうか? この答えは既に知られていて,次の9つの虚2次体の部分集合となる整数環Z(√−d)

  d=1,2,3,7,11,19,43,67,163

に限られるというものです.1966年,アメリカのスタークとイギリスのベイカーは独立に類数1の虚2次体Z(√d)すなわち(d<0,dは平方因子をもたない)なる2次体をすべて決定したのです.類数1をもつというのは,Z(√d)のすべてのイデアルが単項であること,すなわち,2次体Z(√d)のすべての代数的整数が,素数の積として表され,その表現が単数(1の約数となる整数)を無視して,一意であることをいいます.ただし,最初の2つ以外ではーd=1(mod4)なので,半整数a,bを使って,a+b√−dを作る必要があります.

{a+b√−d|Z,Z+1/2}

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ずいぶん以前からこの9個の数は知られていたのですが,10番目の数が存在するかもしれない・・・というまどろっこしい状態が続いていました.

1952年,ヘーグナーは1世紀以上も未解決だった9個ですべてだというガウスによる予想を証明しているのですが,彼は高校の教師で研究者として部外者であり,その証明を標準的な手法で書かなかったため,長らく間違ったものとみなされていました.

ところが,1966年,ベーカーとスタークが独立に世界中を納得させる証明を与えたのを契機に,ヘーグナーの証明がはじめて注意深く吟味され,その証明が本質的には正しいことが明らかになりました.それは不正確であるとして無視されたヘーグナーの証明の誤りを払拭するものでもありました.これでヘーグナーに対する批評が公正でないことが明らかになったのですが,残念ながら,ヘーグナーは1965年に亡くなっており,自らの名誉回復をその目で見ることはできませんでした.現在,9個の数

  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163

はヘーグナー数と呼ばれています.

また,1968年,ドイリングはヘーグナーの証明を修正することに成功しましたが,既にそのときはベイカー,スタークに先を越されていて遅きに失した状況にありました.

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