■ロータリーエンジンはこれから何処へ向かうのか?(その12)

【1】問題の設定

ドイツの工学者ヴァンケルがロータリーエンジンの試運転をしたのは1957年のことであった.ロータリーエンジンはピストンがない分,小型化・軽量化が可能となり,大きさの割には高い出力が得られることから,1964年には日本のマツダ一社が孤高の開発企業としてロータリーエンジンの生産を開始している.

芯のずれた軸(エキセントリックシャフト)に取り付けられたルーローの三角形に似たローターが自由に回転し,また,ローターの回転を制御するため,軸のまわりで固定された回らない歯車のまわりをローターの内歯が噛み合うようになっていて,ロータリーエンジンでは軸が3回転する間にローターが1周する機構を備えている.このように,ロータリーエンジンの幾何学的構成はステーター(ペリトロコイド)とローター(ペリトロコイドの内包絡線)との組み合わせからなっていて,その構造ゆえの問題も多々ある.

ロータリーエンジン諸元は,ペリトロコイド曲線

x=a・cos(αt) + b・cos(βt)

y=a・sin(αt) + b・sin(βt)

の偏心量a と創生半径b の比であるK(= b /a)と排気量から決められる.Kを大きくすればくびれは減るが,躯体が大きくなるので少しくびれがある諸元が選ばれる.すなわち,ロータリーエンジンにくびれ(ノード)はつきものであるが,このくびれをなくし(無節化),円と直線にすることができれば内燃機関としてのメリットも得られると考えられる.

しかしながら,ペリトロコイド曲線は2つの回転運動の合成であるから,その一部に直線や円弧を含むことはできず,問題解決にあたってはこの点を基礎から見直さなければならない.ここでは,ペリトロコイドの呪縛から解放し,繭型曲線を2個の半円を直線で補間したスタジアム型(競技場型)へと変身させ,中心軌道が円で,精確に円と直線に沿って動く機械運動学機構を紹介する.

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