■制限のある分割から(その5)

【1】ダイソンの定数項予想

ダイソンの予想は

  Π(1−xj/xi)^kの定数項=(nk)!/(k!)^n

と同値である.

 

a)n=1の場合は明らか.

b)n=2の場合は

  (1−x1/x2)(1−x2/x1)=−x1/x2+2−x2/x1

  (1−x1/x2)^2(1−x2/x1)^2=(x1/x2)^2−4x1/x2+6−4x2/x1+(x2/x1)^2

  (1−x1/x2)^3(1−x2/x1)^3=・・・−15x1/x2+20−154x2/x1+・・・

となって,定数項は(2β-1,β-1)となることが予想されるが,kが任意の整数の場合は,2項定理

  Σ(k,i)^2=(2k,k)=(2k)!/(k!)^2

を用いて証明できる.

 

c)n=3の場合は

  Σ(-1)^j(2k,k+j)^3=(3k)!/(k!)^3   (ディクソン,1891年)

と同値である.

  Σ(k,i)^2=(2k,k)=(2k)!/(k!)^2

との類似性に注意されたい.

 

 ディクソンの恒等式の拡張が

  Σ(-1)^j(a+b,a+j)(b+c,b+j)(c+a,c+j)=(a+b+c)!/a!b!c!

であるが,さらにこのことからダイソンは

  Π(1−xk/xj)^aiの定数項=(a1+a2+・・・+an)!/a1!a2!・・・an!

なる予想にたどりついた.

 

 すなわち,右辺は多項定理

  (x+y+z+・・・)^n=Σkn・x^a・y^b・z^c・・・  (a+b+c+・・・=n)

の係数

  kn=(a+b+c+・・・+n)

    (a,b,c,・・・,n)

に等しいという美しい予想である.この予想の証明は見かけほど易しいものではないらしいのだが,ダイソンはこの予想の成立を強く確信していたに違いない.

 

d)n=4の場合の証明はそれほど易しいものではないが,ダイソンはn=4,5の場合をなんとか証明した.一般のnについてはうまく証明できなかったのだが,この予想はほどなくウィルソン,ガンソン,グッドにより独立に証明されることとなったのである.

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