■整数の拡大と素因数分解の一意性(その23)

【7】ワイルズの定理

簡単になったとはいえ,ワイルズは,フェルマー予想の証明が一筋縄ではいかないことを実感して一時棚上げにしていたのですが,フライとリベットの結果にフェルマー攻略への道を確信し,研究室に7年間もこもって,彼独自のアイデアをもってとうとう証明に成功しました(1994年).この間の苦節7年には大いなる勇気,確固たる意志,強靭な忍耐力,広範な知識,ずば抜けた戦略,そして幸運を必要としたことは間違いありません.

1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線は,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.このように,整数の問題と幾何学の問題は互いに密接に関係していて,現代数学においては幾何学に代数の構造を入れる,たとえば,楕円曲線にはアーベル群の構造が入り,その上で演算を定義して,代数の構造を手がかりに楕円曲線を研究することになります.そして,同値な図形が同じ値をもつ不変量を定義することによって,構造を同一視することができます.逆に,ある幾何学的対象が同値でないことの証明は,問題の図形の不変量が異なっていることを示すことにより達成されます.

 a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:

  y^2=x(x+a^p)(x−b^p)

が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのです.

 

19世紀の数学者クンマーはx^p−1=0 (p:素数)の複素数解を有理数につけ加えて,整数の概念を複素数まで拡張した円分体の整数という概念を導入することによって,フェルマー予想を攻撃しそれに肉薄したのですが,ワイルズは楕円曲線を等分する点のつくる代数幾何学によってフェルマー予想を完全解決したというわけです.

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