■ガンマ関数とボーア・モレルップの定理(その32)

 レムニスケート(正葉曲線,連珠形)には円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることはよく知られている.

 レムニスケートの弧長は

∫(0,x)1/(1-x^4)^(1/2)dt

と表わされる.これはレムニスケート積分と呼ばれる典型的な楕円積分である.また,

∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dt=1.311028・・・=ω/2

とおくと,2ωがレムニスケートの全長になる.レムニスケートの定数(レムニスケート周率)ωは円に対する円周率πと同じ役割を演じていることになる.

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【1】レムニスケート積分の倍角公式

 レムニスケートサインの加法定理

  sl(u+v)=(sl(u)sl'(v)+sl(v)sl'(u))/(1+sl^2(u)sl^2(v))

より,

  sl(2u)=2sl(u)sl'(u)/(1+sl^4(u))

  sl(3u)=(sl(2u)sl'(u)+sl(u)sl'(2u))/(1+sl^2(2u)sl^2(u))

  sl(4u)=(sl(3u)sl'(u)+sl(u)sl'(3u))/(1+sl^2(3u)sl^2(u))

  sl(5u)=(sl(4u)sl'(u)+sl(u)sl'(4u))/(1+sl^2(4u)sl^2(u))

  sl(6u)=(sl(5u)sl'(u)+sl(u)sl'(5u))/(1+sl^2(5u)sl^2(u))

さらに,

  sl'(u)=(1-sl^4(u))^1/2

  sl'(2u)=(1-sl^4(2u))^1/2

  sl'(3u)=(1-sl^4(3u))^1/2

  sl'(4u)=(1-sl^4(4u))^1/2

  sl'(5u)=(1-sl^4(5u))^1/2

を用いて,sl(u)の関数として表すと

  sl(2u)=2sl(u)(1-sl^4(u))^1/2/(1+sl^4(u))

などが得られる.

 ここで,2等分を与えるにはsl(2u)をsl(u)の関数として表せればよいことになるのだが,レムニスケートサインの倍角公式は

  sl(u+v)=(sl(u)sl'(v)+sl(v)sl'(u))/(1+sl^2(u)sl^2(v))

  sl(2u)=2sl(u)sl'(u)/(1+sl^4(u))

  sl'(u)=(1-sl^4(u))^1/2

  sl(2u)=2sl(u)(1-sl^4(u))^1/2/(1+sl^4(u))=2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4)

のようになり,レムニスケートサインとその導関数が正弦関数とその導関数である余弦関数にいかに類似しているかわかるだろう.

  2u=sl^(-1)(2x(1-x^2)^1/2/(1+x^4))

したがって,レムニスケート積分の倍角公式

  2∫(0,x)f(t)dt=∫(0,2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4))f(t)dt

  2G(x)=G(2x(1−x^4)^1/2/(1+x^4))

が成り立つ.2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4)もxから四則演算および平方根により得られるので,円同様,レムニスケートも定規とコンパスだけで弧長を2倍にする作図が可能であることを示している.

 実際,ファニャーノは倍角公式,4倍角公式によって得られるものに置き換えて,レムニスケートの四半弧の2等分あるいは4等分を与える代数方程式を導いたとされている.たとえば,レムニスケートサインの倍角公式より,

  2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)=1

と置くことによって

  z^2=√2−1

  z=(-1+√2)^1/2=0.643594

が得られる.すなわち,レムニスケート弧長の2等分点は四則演算および平方根により得られるので,円同様,レムニスケートの4半弧も定規とコンパスだけで弧長を1/2倍にする作図が可能であることが示される.

[補]1751年,オイラーは逆正弦関数の加法定理

  G(x)+G(y)=G(x(1−y^2)^1/2+y(1−x^2)^1/2)

との類似に基づいて,レムニスケート積分に対する加法定理

  G(x)+G(y)=G((x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2))/(1+x^2y^2))

を構成することに成功している.加法公式においてx=yとおけば,倍角公式を得ることができる.

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