■サッカーボールとオイラーの多面体公式(その4)

ダイヤモンドとグラファイト(鉛筆の芯)に次ぐ炭素第3の形として「フラーレン」があげられる.フラーレンは1970年に大澤映二氏(当時京都大学)が存在を予言していた分子である.フラーレンの中でも60個の炭素原子が球殻状に結合したC60はサッカーボール(切頂20面体)にそっくりで,12個の五角形と20個の六角形からなる網目状のカゴ構造を形成している.

 それは炭素原子の結合にかかるストレスが均等に分散しているため他に類を見ないほど安定性が高く化学者たちを興奮させずにはおかなかった.内部に金属イオン(荷電粒子)を閉じこめられることがわかると,世界中の研究者がこぞってこの物質の応用とその可能性に目を向けるようになった.超伝導体,潤滑剤,新薬,電池,触媒等々・・・.現在,フラーレンは炭素原子が中空らせん状に並んだカーボンナノチューブとともにナノテク新素材の代表選手と知られている.

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 フラーレンは1970年に大澤映二氏(当時京都大学)が存在を予言していた60個の炭素からなるサッカーボール構造(切頂20面体)をもつ分子である.

 1985年に,クロト,スモーリー,カール(Kroto,Smalley,Curl)がグラファイトにレーザーを当ててできた欠片をマススペクトルにかけたところ分子量が720(C60)と840(C70)という値が得られその存在が確認された.彼らはネイチャー誌に論文を書いてサッカーボールの画を載せた.(その後,数mg〜数百mgのフラーレンが得られる製法が開発され,NMRで間違いなくサッカーボールの形であることが証明された.)

 彼らの論文はサッカーボールの形を推定しただけであるが,結局この3人がノーベル化学賞をもらって,大澤映二氏の名前は世界に広く知られることはなく随筆で止まってしまった.日本人にとっては残念なストーリーである.

 その後,サッカーボール型のC60だけでなく、ラグビーボール型のC70,金属を内部に取り込んだC80などが次々に発見され,これら一群の球状炭素分子はフラーレンと総称される.

 フラーレンはダイヤモンドに次ぐくらい硬く,セシウムやルビジウムなどのアルカリ金属を加えると超伝導をおこすという化学的性質をもつ.切頂20面体は頂点が60あり,どの頂点からも3本の手がでている.したがってC60では30本の二重結合(12500のケクレ構造)が描ける.また,異性体は1812種類もあり,そのうちで12個の五角形がすべて離れているものが1つだけあり,それがサッカーボール型のC60である.この形は最も安定であるが,C60,C70以外にも正五角形12枚,正六角形は20枚〜100枚以上の0次元ダイヤモンドが知られている.

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