■空間の因数分解(その4)

固有方程式とチェビシェフ多項式、固有値の決定 (see appendix-2,-3,-4)

4次元以上では前節のような数え上げは困難である。そこで、シュレーフリ記号{p1,p2,・・・,pn-1}で表されるn次元正多胞体の基本単体の鏡映によって生成される群の固有方程式を考える。

いささか天下り的ではあるが、各成分をci=cos(π/pi)とおいて、主対角線上の成分はすべて0、その両どなりにc1,c2,・・・,cn-1を並べてできる対称な三重対角行列Cnをつくる。

Cn=[0,c1,0,・・・,0]

[c1,0,c2,0,・・・,0]

[0,c2,0,c3,0,・・・,0]

  [・・・・・・・・・]

[0,・・・, cn-2,0,cn-1]

[0,・・・,0,cn-1,0]

ここで、基本単体P0P1・・・PnのPk-1を含まないn-1次元面P0P1・・Pk-2Pk・・PnとPkを含まないn-1次元面P0P1・・Pk-1Pk+1・・Pnのなす二面角はπ/piで与えられる。すなわち、この隣接する2つのn-1次元面の単位法線ベクトルの内積をとると、それが方向余弦cos(π/pi)に等しくなるのである。

また、固有方程式det{λEn-Cn}=0は固有値λに関するn次方程式になるが、Cnは対称行列であるから固有値はすべて実数である。また、主対角成分はすべて0であるから固有値の和は0となる(Σλi=0)。さらに固有値は原点について対称である(λi+λn-i=0)。

実際に、

正単体:c1=c2=・・・=cn-2=1/2, cn-1=1/2

正軸体:c1=c2=・・・=cn-2=1/2, cn-1=1/√2

を代入すると、固有方程式は正単体の場合、第2種チェビシェフ多項式Un(λ)=0、正軸体の場合は第1種チェビシェフ多項式Tn(λ)=0に帰着され、Un(x)=sin(n+1)θ/sinθ、Tn(x)=cos(nθ)、x=cosθであるから、直ちに、固有値

An群の場合はλi=cos(iπ/(n+1))、

Bn群の場合はλi=cos((2i-1)π/2n)

を得ることができる。Σλi=0, λi+λn-i=0が成り立っていることを確認されたい。

これをペトリー数hと指数列m=(m1,m2,・・・,mn)を用いて、λi=cos(miπ/h)の形で記述すると

An群ではh=n+1, m=(1,2,3,・・・,n)

Bn群ではh=2n, m=(1,3,5,・・・,2n-1)

ここで、対称超平面の個数はΣmi で与えられることが知られている。(この事実を個々に観察することは容易であるが、この性質が一般的にきちんと証明されたものなのかどうか心配になる。コクセターはその証明を与えてはいない。一松信先生もそのことを危惧したらしく、著書の中で彼なりの証明を与えている。)

根は原点について対称であることから、mi+mn-i=hが成り立つので、Σmi= nh/2。したがって、

An群の対称超平面数はn(n+1)/2

Bn群の対称超平面数はn^2

で与えられることになる。

q=(1,1,1,・・・,1)となるワイソフ多胞体の対称超平面の個数は、原正多胞体のそれに等しい。また、このワイソフ多胞体は対称超平面の法線ベクトル配置によって決定されるゾノトープであるため、対称超平面の個数は平行な辺の組数、さらには対蹠点に至るステップ数とも等しくなる。例えば、切頂八面体{3,3}(1,1,1)、大菱形立方八面体{3,4}(1,1,1)の対蹠点に至るステップ数は原正多面体である正四面体、正八面体の対称平面数と等しく、それぞれ6,9となる。

正単体・正軸体以外の正多胞体の場合、たとえば、

正20面体:c1=1/2, c2=τ/2

正600胞体:c1=c2=1/2, c3=τ/2, τ=(1+√5)/2

を代入すると、正20面体の固有方程式はチェビシェフ多項式の簡単な1次結合:2τ^2T3(λ)-U3(λ)=0、正600胞体の固有多項式は2τ^2T4(λ)-U4(λ)=0, τ=(1+√5)/2に帰着され、ペトリー数と指数列はそれぞれ

H3群ではh=10,m=(1,5,9)

H4群ではh=30, m=(1,11,19,29)

と計算される。正単体・正軸体の場合とは違って、正20面体の指数列は正600胞体の指数列に遺伝しないことに注意されたい。しかし、このような場合であっても、対称超平面の個数はnh/2=Σmi で与えられる。このことから、大菱形20・12面体{3,5}(1,1,1)と4次元の{3,3,5}(1.1,1,1)のステップ数はそれぞれ15と60になる。

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