■形の科学会レポート(その11)

 爆縮レンズは普通の光学レンズとはまったく異なるものである.集めるのは光ではなく衝撃波である.記憶に頼って書いているので,あやふやなところも多いが,爆縮レンズは核弾頭に使われる技術である.

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 空洞になった楕円球の焦点のひとつで爆発が起こったとする.衝撃波はもう一つの焦点に集中する.どの経路を通ったとして行程は等しいので,位相差は生じない.そのため,衝撃波のエネルギーを1点に集めることができる.空洞になった球でも同じである.中心で爆発が起こると,衝撃波は中心に集中するように向かう.

 しかし,もっと効率のよい方法がある.それは準正多面体の複数の頂点で一斉に爆発を起こすというものである.準正多面体は外接球をもつから,各頂点から中心までの距離は等しい.そのため,中心に衝撃波のエネルギーを集めることが可能になる.

 どんな形の多面体が最適なのかまでは覚えていないが,たとえば,切頂八面体は菱形12面体よりも適した形であることが明らかである.前者は準正多面体なので外接球をもつが,後者は内接球をもつものの外接球はもたないからである.

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 軍事技術オタクのK氏が爆縮レンズについて教えてくれた.爆縮レンズの爆薬は切頂20面体(サッカーボール)の32個の面に配置するが最適であると計算されているようだ.切頂20面体では

[1]中心から正五角形面までの距離

  H0=(2+τ^4)/2√(τ√5)=2.32744

[2]中心から正六角形面までの距離

  H2=τ^2√3/2=2.26728

と計算される.

 wikipediaのファットマン(長崎に投下されたプルトニウム型原爆)の図を見て欲しい.リトルボーイ(広島に投下されたウラン型原爆)にはこのような32面体構造はみられない.その意味でリトルボーイはシンマンであり,ファットマンが太っているのは32面体のサッカーボールが内蔵されているためということになる.

 ファットマンの重量の半分以上(2.5t)は爆縮レンズの爆薬であったのである.また,地面ではなく空中で爆発させた方が原爆の破壊力が増すことも計算により導かれていて,実際,ファットマンは長崎市の上空550mで炸裂したという.

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