■最短距離に関する問題(その7)

【5】三角形ビリヤードの最短経路

 1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく平面を埋めつくす鏡映三角形による平面充填について考えます.たいていの場合は途中で3角形同士が重なってしまいますが,うまくいくと平面を鏡映三角形で埋めつくすことができます.

 このような平面充填が可能な3角形は

  (6,6,6) → 正三角形

  (4,8,8) → 直角二等辺三角形

  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形

  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形

の4通りあります.このうち,30°,30°,120°の角をもつ三角形は,正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.

 これらはすべて頂角のまわりで鏡像を貼り付けていって1周で鏡像群が元に戻るものですが,ここでは正三角形や頂角が(30°,60°,90°),(45°,45°,90°)の直角三角形のような頂点がすべて有理数×πで与えられるものばかりでなく,無理数×πで与えられるものを含む一般の三角形ビリヤードの周期性について考えてみます.

 鋭角三角形のビリヤード台を考えると,各辺で1回ずつ反射して常に同じ軌道をぐるぐると周り続ける巡回軌道が存在します.また,三角形の内部を2回以上回って最初の点に戻るような巡回軌道は無数に考えられます.

 三角形ビリヤードの場合,球があたる壁を中心として鏡像を貼り付けていくと,6個目の鏡像で最初の三角形を平行移動させたものが登場しますから,このことは任意の位置から特定の角度でビリヤードの球を発射させると6回壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくることができることを意味しています.

 ちょうど1周で最初の点に戻る巡回軌道はあらゆる巡回軌道のなかで最短のものであって,三角形の各頂点から対辺に下ろした垂線の足を結ぶ「垂足三角形」に限られます.

 3辺の長さ和の最小値を与える内接三角形である垂足三角形には「垂足三角形の内角は各垂線によって二等分される」という性質があります.そのため,垂線の足の位置から他の垂線の足の位置に向けてビリヤードの球を発射させると,3回壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくるのです.

 三角形の内部を2回以上回って最初の点に戻るような巡回軌道でもこの軌道上の各辺はいずれも垂足三角形の辺と平行となります.また,四角形ビリヤードでは,四角形が円に内接し円の中心が四角形の内部にある場合,そのような四角形の内部には巡回軌道が存在しうることが知られています.

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